仕事やプライベートで何かうまくいかなかったときに、自分の努力不足を棚に上げて他人や環境のせいにするのはよくあること。精神科医の片田珠美さんは、近年その他責傾向が強まっていると指摘する。その理由とは――。

※本稿は片田珠美『一億総他責社会』(イースト新書)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/FangXiaNuo)

「一億総活躍社会」が「一億総他責社会」を生む

現在日本社会で起こっている問題と他責的傾向の関連性について考えたい。

まず、「一億総活躍社会」というスローガンである。当たり前だが、このスローガンをいくら声高に叫んでも、みんながみんな活躍できるわけではない。誰か活躍して輝く人がいれば、その裏には必ず活躍できず、輝けない人がいる。

そういう人が、「一億総活躍」という言葉を聞くと、「みんな活躍しなければならない」と発破をかけられていると受け止め、プレッシャーを感じるのではないか。中には、活躍して輝く知人と比べて、自分との落差を痛感し、「自分はダメだ。どうして自分はこんなに情けない人間なんだ」と落ち込む人もいるかもしれない。

このように「自分はダメだ」と思うのはつらい。自分のダメさ加減を認めるのは、もっとつらい。誰にでも自己愛があるからだ。だから、「あの人はあんなに活躍して輝いているのに、なぜ自分は活躍できず、輝けないのか?」という疑問を抱かずにはいられず、自分の納得できる答えを必死で探そうとする。

その答えが「あの人は頭がいいから」「あの人は勉強したから」といったものであれば、他人の能力や努力を認めるわけだから、他責的とはいえない。しかし、そういうふうに考えられる人ばかりではない。