慢性化して治りにくい新型うつ

何よりも対照的なのは、従来型うつの患者が自責的なのに対して、“新型うつ”の患者は他責的なことである。たとえば、従来型うつを発症した会社員は「自分が至らなかったせい」と自分自身を責めることが多いが、“新型うつ”を発症した会社員は「会社が自分の能力を正当に評価してくれなかったせい」「向かない部署に異動させられたせい」「上司が自分を理解してくれなかったせい」「同僚が自分を助けてくれなかったせい」などと周囲のせいにして責める。

片田珠美『一億総他責社会』(イースト新書)

困ったことに、“新型うつ”は、従来型うつのように抗うつ薬が奏功するわけではなく、慢性化して治りにくい。しかも、「わがまま」「自分勝手」に見えることも少なくない。そのため、人間関係が壊れて、社会生活に支障をきたす深刻な事態を招きかねない。

「わがまま」「自分勝手」に見えるのは、自分がうつと認めることにも、うつで休職することにも抵抗が小さいからかもしれない。従来型うつの患者は、まじめで仕事熱心なためか、休職に抵抗を示すことが少なくなかった。それに対して、“新型うつ”の患者は、休職への抵抗が小さく、中には初診時に「休職の診断書を書いてください」と要求する患者もいて、たじろぐことがある。

もちろん、その背景には、新しいタイプの抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の発売と軌を一にして、うつに関する啓発が進み、認知度が上がったこともあるだろう。啓発キャンペーンで流された「うつは心の風邪」というキャッチコピーの影響で、精神科の敷居が格段に低くなった。

その結果、以前と比べて精神科を受診しやすくなったことが、心の病による休職への抵抗が小さくなった一因であり、それ自体は決して悪いことではないと私は思う。休職への抵抗が大きいと、つらくても我慢して働き続けたあげく自殺を考えるまで追い詰められかねないからだ。

職場の反感を買いやすい

もっとも、休職への抵抗が小さいと、職場の上司や同僚などから反感を買いやすい。とくに、“新型うつ”の患者は、職場から離れると元気で活動的になるので、本人が休職中に趣味や遊びを楽しんでいる姿を職場の仲間に目撃され、「勝手うつ」「怠け病」「仮病」などと中傷されることもある。

このような中傷を擁護するつもりはないが、中傷する側の気持ちも、わからないではない。一人でも休職すると、その分の仕事を残りの社員が分担してこなさなければならず、それだけ余分な仕事が増える。だから、「ただでさえ忙しいのに、あいつのせいで俺の仕事が増えた」と被害者意識を抱いて怒る社員がいても不思議ではない。