他責的なうつの増加

他責的傾向の強まりは、心の病にも影響を与えている。最近うつ病やうつ状態で受診する方が多いが、従来のうつとは違うタイプが増えており、「非定型うつ病」「ディスチミア親和型うつ病」などと呼ばれる。いわゆる“新型うつ”である。

従来、うつは「きまじめで努力を惜しまない性格の人」に多いとされてきた。実際、几帳面で責任感が強く、仕事熱心で、規範を忠実に守る模範的な人がうつになりやすい印象があった。

このような性格傾向は「メランコリー親和型」と呼ばれ、こういう人が発症しやすい「メランコリー親和型うつ病」では、「自分が悪い」と自分を責める自責的傾向が強い。この手の従来型うつは、抗うつ薬による薬物療法に比較的よく反応し、休養と精神療法を組み合わせることによって、病状はかなり改善する。

従来型うつと新型うつの違い

一方、最近増えている“新型うつ”は、病像が全然違う。職場では元気がなくなり、うつ症状が悪化するのに、趣味や遊びでは活動的になる。つまり、自分の好きなことを楽しんでいると症状が軽くなるわけで、従来型うつの患者が何に対しても意欲がわかず、何をしても楽しめないのとは対照的である。

もともとの性格傾向、つまり病前性格も対照的だ。まず、まじめで仕事熱心とはいいがたく、規範や秩序に抵抗がある。また、他人の何気ない言動に過敏に反応し、自分が無視されたとか、批判されたとか否定的に解釈しがちである。こうした傾向は「拒絶過敏性」と呼ばれ、そのせいで激しく怒ったり、ひどく落ち込んだりすることもある。

たとえば、30代の男性会社員は、上司から「仕事のスピードをもう少し上げられるといいね」と言われただけで、自分の仕事のペースが遅いと批判されたように感じて腹が立ったという。同時に情けなくて、落ち込み、翌朝起きようとすると体が鉛のように重たく感じられて全身がだるく、出勤できなくなった。これは「鉛様疲労感」と呼ばれる症状であり、この症状が一週間ほど続いたため、私の外来を受診した。