これからは、変化対応行動の高い人材が求められる

【佐藤】能力を高めなければいけないのは確かです。今の仕事で数年後までであればどうにか必要なスキルはわかる。しかし、5年後、10年後に必要なスキルはわからなくのです。ただ確実なのは、仕事が大きく変化しているのは間違いない。つまり、そのときになると新しいスキルが必要になるわけです。そのための準備として、3つのことを勧めています。まずは“知的好奇心”。アンテナを張って社内外の変化をウオッチし、早めに変化に気づくことです。次に“学習習慣”。仕事に必要なことだけでなく、おもしろそうだと思ったことなどを学び続ける習慣です。最後は“チャレンジ力”。新しいことをやれと言われた際、びっくりせずに前向きに取り組むことです。この3つの「変化対応行動」が取れている人は変化に困らないんです。

――その3つはどうすれば獲得できるのでしょうか?

【佐藤】社内で変化の多い仕事を経験していること。自分と違う考え方の人と一緒に仕事をしていること。大事なのは、仕事以外の役割を持っていること。男性でも夫役割、父親役割があるが、やっていない人もいる。地域では住民としての役割が、大学院に行けば学生役割がある。仕事役割以外の役割を担うために、働き方改革でできた時間を有効に使って取り組むことが、結果的に自分自身の変化対応行動の向上につながります。

【白河】それらは管理職人材には必須ですし、女性は妻・母の役割などをすでに実践していますね。

【佐藤】女性のほうがすでにいろいろな役割を担っているので調整力があり、上司になっても、多様な部下、変化する部下に柔軟に対応できると思いますよ。

――今後の日本企業の課題とは?

【佐藤】問題は「今の働き方でいい、逆に早く帰ったら妻に怒られる」と言うような人をどうするか。若い人でも「いい仕事をしたいのに、なぜ帰れと言うんだ」と言う人もいる。この人たちといかに闘って働き方を改革していくのか。仕事をするだけでスキルが高まるわけではない、仕事以外も知らないと、「変化対応行動」が取れないのですから。

【白河】男性で長時間労働の人は、本当に会社以外のことを知らないですからね。

【佐藤】管理職登用基準も変えないといけない。今の登用基準だと、女性は管理職になりにくい。でも管理職に求められるヒューマンスキルの内容を明確にしたら、女性のほうに管理職候補が多いという話になります。女性の管理職を増やそうではなく、登用基準を明確にしたら、結果女性が増えていたということも大切です。

【白河】今のままだとジェンダー平等が達成されるには7世代かかるらしいので、もう少し変化を早めてほしい。女性管理職が増えたら、業績が上がるのかと言われるけれど、今まで失ってきたものも大きいですよね。

【佐藤】それは間違いない。損しているし、生かしてこなかった。企業はしっかりそこを見ていくべきですね。

編集部注:文章の一部を修正しました(2020年3月2日)。

撮影=田子芙蓉

佐藤 博樹(さとう・ひろき)
中央大学ビジネススクール教授・東京大学名誉教授

1981年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。法政大学経営学部教授,東京大学社会科学研究所教授などを経て、2014年10月より現職。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。