「仕事は休めません」と答えて叱られた

忙しくて夢中になれる仕事がしたい。共働きの両親を見て育ち、子どもの頃からそう思っていたという小林さんは、2005年にキャリアデザインセンターに新卒で入社。企業の求人広告制作部門に配属され、雑誌からWeb媒体まで600社以上の企業を担当した。当時は昼も夜もなく、仕事に熱中していたという。

「自分の時間よりも『もっといいものを作る』ことが大事だったので、気がつけば終電をすぎているような日々。会社近くのカプセルホテルに泊まることもよくありました」

6年目で課長職に昇進し、外部ライター活用チームの立ち上げを担当。1年やりきったところで妊娠がわかった。夫婦で望んでいたことではあったが、仕事のことを考えるとやはり心が揺れる。

切迫流産で安静を命じられた際、医師に「仕事は休めません!」と答えて叱られ、上司にも「仕事は引き取るから、赤ちゃんと向き合え」と叱られ、出産後は1年半ほど育休をとり、仕事や家庭と向き合う自分を見つめ直すことになったようだ。

「人生が変わったような気がしました。家は寝に帰るだけの場所だったけれど、育児を始めたことで社会や地域とのつながりができ生活の場になっていく。それまで仕事の世界しか知らなかったので、視野が広がりました」

「自分らしく」を見失った育休明け

「育休中に良くなかったのは、仕事をしていないという負い目があって、家のことは全部自分がしなければならないと勝手に思い込んでしまったことです。夫もそれが当然のようになっていったので、復職したときに自分が潰れかけてしまい……」

復職に向けて、保活にも苦戦した。申し込んだところはすべて落ちて、3月末にぎりぎりで無認可保育園へ入園できたものの、家から遠くて送り迎えも大変だったので、復職後は時短勤務に。仕事もマネジメント職から専門職に変わった。ちょうど部門採用が始まるタイミングでインターンシップの立ち上げという責任ある仕事を任されたが、最初の数カ月は精神的にもつらかったと振り返る。

「ずっと時間に関係なく仕事をしてきたので、時短勤務という制約になじめなかったんですね。とはいえ、子どもに我慢させて勤務時間を延ばしたり、家に仕事を持ち帰ったりしても全然うまくいかなかった。私は何も変わっていないのに、周囲から『子どもがいる小林さん』として扱われることに焦る気持ちがあったように思います」

早く帰ることを誰から非難されるわけでもなく、周りは気遣ってサポートしてくれる。それが申し訳なくて、自分は役に立っていないように思えてしまった。一方、家に帰れば、子育ても家事もひとりでやらなければならず家の片付けがおろそかになったり、子どもが病気になったりする度にストレスもつのる。どうすれば自分らしく仕事を続けられるのかと悩み、気持ちは空回りするばかりだった。