第一線で活躍中の女性管理職のみなさんにお話を聞く、人気連載「女性管理職の七転び八起き」第11回。今回取材したのは転職サイト『女の転職type』の編集長・小林佳代子さん。「忙しくて夢中になれる仕事をしたい」と願って入社して以来、全力で働き続けてきた小林さんが産育休をきっかけにして感じることになった“視野の広がり”と“負い目”とは? そして、それらの体験を、今の仕事にどう活しているのでしょうか。

自分らしい働き方を探し続けて…

キャリアデザインセンター「女の転職type」の編集長・小林佳代子さん

「正社員で長く働きたい女性のための転職サイト」がコンセプトの媒体「女の転職type」。編集長の小林佳代子さんにはこんな思いがあるという。

「女性が長く働くこと自体は当たり前になりつつありますが、例えばライフステージの変化に合わせて働き方を変えたり、キャリア設計のために未経験で転職をしたりするのはまだまだ簡単ではありません。女性が自分らしく、働きやすい環境を“選べる”ようになってほしい。その手助けをするサイトでありたいと思っています」

自身もまた、子育てとの両立や時短勤務などの制約があるなかで悩み、自分らしい働き方を探し続ける日々があった。

「仕事は休めません」と答えて叱られた

忙しくて夢中になれる仕事がしたい。共働きの両親を見て育ち、子どもの頃からそう思っていたという小林さんは、2005年にキャリアデザインセンターに新卒で入社。企業の求人広告制作部門に配属され、雑誌からWeb媒体まで600社以上の企業を担当した。当時は昼も夜もなく、仕事に熱中していたという。

「自分の時間よりも『もっといいものを作る』ことが大事だったので、気がつけば終電をすぎているような日々。会社近くのカプセルホテルに泊まることもよくありました」

6年目で課長職に昇進し、外部ライター活用チームの立ち上げを担当。1年やりきったところで妊娠がわかった。夫婦で望んでいたことではあったが、仕事のことを考えるとやはり心が揺れる。

切迫流産で安静を命じられた際、医師に「仕事は休めません!」と答えて叱られ、上司にも「仕事は引き取るから、赤ちゃんと向き合え」と叱られ、出産後は1年半ほど育休をとり、仕事や家庭と向き合う自分を見つめ直すことになったようだ。

「人生が変わったような気がしました。家は寝に帰るだけの場所だったけれど、育児を始めたことで社会や地域とのつながりができ生活の場になっていく。それまで仕事の世界しか知らなかったので、視野が広がりました」

「自分らしく」を見失った育休明け

「育休中に良くなかったのは、仕事をしていないという負い目があって、家のことは全部自分がしなければならないと勝手に思い込んでしまったことです。夫もそれが当然のようになっていったので、復職したときに自分が潰れかけてしまい……」

復職に向けて、保活にも苦戦した。申し込んだところはすべて落ちて、3月末にぎりぎりで無認可保育園へ入園できたものの、家から遠くて送り迎えも大変だったので、復職後は時短勤務に。仕事もマネジメント職から専門職に変わった。ちょうど部門採用が始まるタイミングでインターンシップの立ち上げという責任ある仕事を任されたが、最初の数カ月は精神的にもつらかったと振り返る。

「ずっと時間に関係なく仕事をしてきたので、時短勤務という制約になじめなかったんですね。とはいえ、子どもに我慢させて勤務時間を延ばしたり、家に仕事を持ち帰ったりしても全然うまくいかなかった。私は何も変わっていないのに、周囲から『子どもがいる小林さん』として扱われることに焦る気持ちがあったように思います」

早く帰ることを誰から非難されるわけでもなく、周りは気遣ってサポートしてくれる。それが申し訳なくて、自分は役に立っていないように思えてしまった。一方、家に帰れば、子育ても家事もひとりでやらなければならず家の片付けがおろそかになったり、子どもが病気になったりする度にストレスもつのる。どうすれば自分らしく仕事を続けられるのかと悩み、気持ちは空回りするばかりだった。

夫に協力してもらい「とことんやる」と決めた

さらに2年近く産育休を取っている間、社内の配置も大きく変化していた。かつて部下だったメンバーが昇進し、同僚が上司になっている。その成長ぶりを目の当たりにすると、自分だけが後退しているようで焦りも覚えた。当時は時短勤務の管理職も少なく、その先のキャリアも見えてこなかったからだ。ならばいかに責務を果たし、自分の存在価値を築けるのかを考え続けた。

「やっぱり自分が納得できる成果を出さなければと思ったんです。そのためには、勤務時間内で無理そうなことは誰かに任せ、人に頼るところは頼る。自分がやりたいときには夫に協力してもらってとことんやると、腹をくくって仕事に挑みました」

新卒採用で初の試みとなるインターンシップの立ち上げも、チームメンバーだけでなく、部署全体を巻き込み、成果に徹底的にこだわって目標を大きく達成できた。翌年には、はじめての異動を経験。Webマガジン編集部で、webマガジン「Woman type」の編集長に就任。数年ぶりに、ラインマネジメントにも復帰した。

一方、家庭でもどんどん図々しくなってと、苦笑する小林さん。最初は夫に誓約書を書いてもらい、「週一回は保育園へ送りに行く」など細かなことから頼む。そこから少しずつ話し合い、食器の片付けやお風呂掃除など家事も分担するようにした。今では家事はほぼ半々。「夫は家事能力が高いと気づいた」と笑う。

「自由になれる」ことを知ったはじめての一人旅

子どもが3歳になったころ、海外への一人旅も実現したそうだ。会社では2週間の休暇をとって海外で研修できる制度があり、小林さんが企画したテーマは「バルトの女たち」。バルト三国のひとつ、エストニアにはキフヌ島という小さな島があり、男性が漁に出かけている間に女性たちが独自の文化を築いている。そんな女性たちに興味を惹かれ、一人で訪れてみたかったのだという。

「一人旅もはじめてで、子どもがいたって自由になれるんだと。誰のママでも、誰の奥さんでも、誰の上司でも部下でもなく、ただ私自身がそこにいて、体ひとつでよく頑張ってきたなと世界の果てでしみじみ思えた。今でも忘れない貴重な体験です」

二人目の子どもを出産したのは2016年夏。半年後には復職し、編集の現場へ。その後、新しいオウンドメディアの編集長や、メディアの統合など新しい仕事へのチャレンジを重ねた。

「月並みですが、仕事の難しさを子供が癒してくれて、子育てのストレスを仕事で発散できる。両方大変だけど、両方楽しいとやっと思えるようになりました」

転職活動は「私はどう生きたいのか」を見つめ直すきっかけのひとつ

子育てとの両立や時短勤務を通して、自分の働き方を模索してきた小林さんにとって、次なるミッションは「女の転職」と向き合うことだ。2018年7月からは『女の転職type』編集長を務め、サイト内の開発・企画を担っている。そこでは自身の体験がいかに活かされているのか。

「女の転職では、『育児と両立OK』な求人かどうかや産育休の活用事例、『女性管理職有』など、女性が働きやすい環境を全求人で必ずチェックしています。基本的には独自に取材をし、女性が活躍するにあたって必要な情報をちゃんと聞いて掲載する誠実さを大事にしています。社風が分かるよう写真が多いのも特徴ですね」

編集記事では、自分らしい働き方を実現している女性たちのインタビューやアンケートなども載せている。そもそも転職を考える女性たちに、ちょっとでも立ち止まって仕事の在り方を見直してもらうようなコンテンツ作りを心がけてきた。さらに未経験者でもエンジニアのようなプログラミング体験ができるセミナーを開催。今、エンジニア系の求人は引きも切らず、これからも伸びていくマーケットと言われているので、選択肢を増やしてもらうための取り組みだ。

女性の場合は出産を機に退職し、子育てが落ち着いてから再就職を目指す人。育休後の異動なのでキャリアに悩み、転職を考える人も少なくないが、やはり家庭や子どものことを思うと不安も大きいだろう。小林さんは自分の体験も踏まえて、女性の転職をこう捉えている。

「まずは自分がどう生きたいかを見つめ直してみる。スキルがなければ新たに学んでみるのもいいし、やりたいことに向かう手段もとれるでしょう。そこが曖昧なままだと諦めてしまいがちですし、人生ただ生きていてもいろいろあるので、流されてしまいがちです。主語を『私は』にして、自分が本当にやりたいことと向き合うことが大切だと思います」

実は自身も将来のキャリアを描けず、転職を思い悩んだ時期があった。そこで本当にやりたいことを見つめ直し、上司にきちっと話すことで希望する仕事への異動がかなえられたという。だからこそサイトを通して「自分がやりたいことを明確にして動いてみては?」と女性たちの背中を押す。