サムスンは5G関連の需要で業績反転か
経済運営の行き詰まり懸念に加え、韓国では格差問題も深刻だ。文政権は、最低賃金の引き上げや、高齢者の短期雇用の増加に取り組んだ。それは既得権益層には有利だ。一方、就業していない若年層を中心に雇用と所得の環境は厳しさは増しており、韓国の内需を冷え込ませる一因とみられる。
韓国の小売企業の業績などを見ると、個人消費を取り巻く環境の厳しさがうかがえる。韓国の百貨店やディスカウントストア運営企業の業績や株価は不安定に推移している。とくにディスカウントストア業界では、業績不振が鮮明な企業もある。価格帯の低い店舗での購入を控える人が増えるほど、韓国の経済環境は厳しさを増していると考えられる。
また、韓国経済を見わたすと、半導体に代わる付加価値創出の源泉が見当たらない。サムスン電子では5G関連の需要によって業績反転の兆しが出つつあるようだ。
同時に、同社は有機ELパネル分野などで中国企業が仕掛ける価格競争にも対応しなければならない。ほかの電機関連企業の業況は依然として不透明だ。くわえて韓国の電機業界は、半導体の材料や製造装置をわが国に依存している。
新しい産業の育成などを通して、国民全体がより公平に成長を実感するために、政府が企業の賛同を取り付けつつ、改革を進めることは重要だ。改革に背を向けたまま、韓国が経済の安定と成長を目指すことは難しいだろう。
文政権の政策運営に対する不安
改革を進めるためには、文大統領が経済状況を立て直しつつ、人々の多様な考えや主張を調整し、国を一つにまとめなければならない。しかし、文氏がそうした考えを重視するとは想定しづらい。
文大統領は労働組合や市民団体を主要な支持基盤としている。同氏にとって支持者の意向に背を向けることは、政治生命のみならず、大統領任期を終えた後の人生を脅かすことになるだろう。韓国では政権交代の都度、歴代の大統領などが逮捕されたからだ。文氏はその展開を避けなければならない。
そのため同氏は、徹頭徹尾、“南北統一”“反日”を政策の根底に据えている。土壇場で日韓GSOMIAの破棄は回避されたが、当初、文氏が協定破棄を重視した背景には市民団体などの強い意向があったとみられる。一方、保守派はGSOMIAの維持を求めた。米国からの強い働き掛けもあり、最終的に文政権は渋々、GSOMIAを延長したというべきだろう。
この状況は、韓国の世論が二分されていることを示している。南北統一に関しても世代間で意見が分かれているようだ。若年層には、「南北統一のために自国の負担が増えることは耐えられない」との考えが多い。