匿名で書くと、読者にどんな感情が生まれるか

匿名で書くことの楽しさは、「匿名だからこそ身分や環境に配慮せずに正直に書いているにちがいない」という信頼性と、「匿名で身分を明かせない奴は怪しい。いいかげんな嘘つきにちがいない」という不信感とのあいだで、読んでくれる人たちに感情の揺さぶりをかけられることだ。

フミコフミオ『ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』(KADOKAWA)

僕はただ普通に書いているだけだ。僕にはそれしかできない。ただ、普通に書いているだけでも、読み手が勝手に、自分から「これリアルなの?」「フィクションなの?」つって感情を揺さぶられてくれるのだ。

楽しいじゃないか。

僕は、リアルなプロフィールそのままの、ほぼ素の自分そのもののフミコフミオという別人格「ペルソナ」を、読み手の感情の揺さぶりに落とし込むことで、反応や効果を楽しんでいるだけなのだ。

このように僕は、フミコフミオという匿名を、書くことを楽しむためのひとつのツールとして使っている。本名の沢尻エリ夫が普通に書いているだけでは、なかなか人を揺さぶることはできない。もちろん、この文章も僕がフミコフミオという匿名で書き続けてきたからこそ、書く機会が与えられたわけである。

僕にとって匿名で活動することはもうひとりの自分、ペルソナをつくって、もうひとつの人生を楽しむことに他ならない。それは実名での活動では得られない楽しい経験なのだ。

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