費用対効果が低い仕事は断る
ドイツ人は仕事をする際に慌てて取りかからない。仕事を始める前に、注ぎ込む労力や費用、時間を、仕事から得られる成果や見返りと比較する。仕事から得られる成果が、手間や費用に比べて少ないと見られる場合には、初めからその仕事はやらない。
もし日本ならば、仕事を発注する側の顧客が、担当企業から「見返りに比べて費用がかかりすぎるので、うちではできない」と言われたら、顧客は激怒するだろう。顧客は、その会社に二度と仕事を発注しないかもしれない。だが、ドイツではこういう説明を受けても激怒せずに納得する発注者が多い。発注者自身も常に費用対効果のバランスを考えながら仕事をしているからだ。
このようにドイツでは、日本に比べると「お客様(顧客)は神様」という発想が希薄なのだ。
発注者と担当企業、もしくは買い手と売り手の目線がそれほど変わらないのである。少なくとも日本のように大きな格差はない。受注企業、つまり物やサービスを売る側が、客に対してへりくだった態度を取らず、堂々としている。これはドイツの商店やレストランの従業員の態度と同じである。
つまりドイツでは客も、企業の都合に配慮しなくてはならない。しかもこの国は法律や規則の順守を重視する国なので、企業は法律の枠内で仕事をしなくてはならない。日本との違いが最も際立つのが、労働時間と休暇の問題である。
労働によって自己実現しようとする人は少ない
「なぜドイツ人はこんなに労働時間が短いのに、経済が回るのでしょうか?」
私はこの国に派遣された日本企業の駐在員からよくこういう質問を受ける。結論から言えば、日独のワーク・ライフ・バランスの充実度を比べると、ドイツに軍配を上げざるを得ない。これは私が日本で8年間、ドイツで29年間働いた経験に基づく実感である。
ドイツ人は無理をしてまで、お金を稼ごうとはしない。ある意味で労働に対する見方が、日本人よりもさめている。「労働によって自己実現をする」と考えている人は、日本よりも少ない。いわんや健康を犠牲にしてまで長時間労働をする人はほとんどいない。個人の暮らしを犠牲にするくらいならば、お金稼ぎにブレーキをかける。
彼らにとって、働きすぎによって精神や身体の健康を崩すことは本末転倒なのだ。ドイツでは日本に比べると長時間労働による過労死や過労自殺、ブラック企業が大きな社会問題にはなっていない。
大半のドイツ人は、「仕事はあくまでも生活の糧を得るための手段に過ぎない。個人の生活を犠牲にはしない」という原則を持っている。だから、同じ成果を出すための労働時間は短ければ短いほどいいと考える。常に効率性を重視しているのだ。