そのうえでまず、紹介したい本は『三国志』です。これは学生時代から読んでいます。最初に触れたのは吉川英治さんの小説だったでしょうか。作中では登場人物が仲良くなったり裏切ったりの連続。どの武将が好きというよりは、局面によって変化していく人間関係を読みます。忠節を尽くす人もいれば、妬みを抱える人も現れます。そういうところは時代が今の世の中でも全然変わらないですよね。『三国志』は人間社会や人間そのものについて教えてくれたと思っています。政治の世界に通じるところが多いと感じています。

吉川英治●1892年、神奈川県生まれ。さまざまな職業を経た後、作家活動に入る。国民文学作家と称され、今も読み継がれている作品が多い。代表作に『鳴門秘帖』『宮本武蔵』『新書太閤記』『新・平家物語』『私本太平記』。(AFLO=写真)

学生時代は勉強はしませんでしたが、もともと読書は好きで、特に歴史ものを読み込んでいました。みんな織田信長や豊臣秀吉、徳川家康あたりはよく読むではないですか。そんな中、横浜市議会議員選挙に出る前後だったでしょうか、本屋で見つけたのが、秀吉の弟について書かれた堺屋太一さんの『豊臣秀長――ある補佐役の生涯』でした。

参謀に関する本もいろいろありますけど、このようなストーリー形式で書かれた本というのはなかなかないのではないでしょうか。農家の生まれで何もないところからスタートした豊臣秀吉がどうして大成できたのかはもともと気になっていたことでもあります。

豊臣秀吉の本の多くは、だいたい秀吉のいいところしか書いていない。でも彼が世に出た裏には、やはりこういうしっかりとした支えがあったのだということを、当時非常に納得しましたね。信長との関係性の変化など、秀吉にはいろいろなことが降りかかりますが、秀長のようにいつでも裏で必ず守ってくれる存在があったからこそ天下が取れたんだなと。

“判断する人”に読んでもらいたい

堺屋太一●作家、元経済企画庁長官。1935年、大阪府生まれ。東京大学経済学部卒。旧通商産業省時代に70年日本万国博覧会(大阪万博)を手がけた。大阪府・大阪市特別顧問、内閣官房参与も務めた。「団塊の世代」の名付け親。(時事通信フォト=写真)

秀吉は最初、自分が天下を取ることなど考えていません。それがいつの間にか、たまたま秀長の支えを得たことを機に、大きな時代の流れの中で突出していきますよね。なぜ秀吉がああいう形で伸びていったのかというのがこの本を読むことによってよくわかりました。私と秀長を重ねる人もいますが、官房長官はそれほど裏方でもありません(笑)。官房長官は一日に2回記者会見をやって、表舞台にも出ていますから。

とはいえ、政権を運営するのはものすごく大変です。秀吉のころと同じく、いいときばかりは続かない。予期せぬことが次から次へと起こりますから。この本からは、リーダーが困難に直面するときこそ裏でしっかり支えなければならないということを学び取ることができます。判断は総理自身がする必要もありますが、こちら側から総理に対してさまざまな情報や状況をしっかり伝えることが大事になります。今何を考えて、何をやらなきゃまずいか。