そんな数々の失敗を経て、今では自分なりの睡眠パターンが見えてきました。僕の場合、理想の睡眠時間は8時間。結構寝ていますね(笑)。でも羽生善治先生も睡眠は長めに確保されていると聞いたことがありますし、藤井聡太さんも現役高校生ながら数多くの対局をこなし、かつ睡眠はきちんととっているという話です。頭脳仕事こそ睡眠時間を確保すべきなのは、間違いないでしょう。

競馬騎手の話で「香り」に開眼

とはいえ生活が不規則になりがちな仕事もありますよね。棋士もその1つ。地方での対局も多く、将棋中継の解説をするときは終業が夜中の1時すぎになることもあります。意識的に睡眠スケジュールを立てないと、なし崩し的に就寝時間がズレこんでしまうので、重要な対局の3日前以降は夜遅い仕事を入れないように気をつけています。

中村氏が愛用するオーダメードの枕。3つあるクッション部分は、細かい高さ調整が可能。中の素材も5種類の固さから選べる。

対局前日は基本的に家で対戦相手の戦法を分析しています。ただしPCやケータイを見るのは夜10時まで。その後は風呂に入り、将棋とは関係ない本を読むなどリラックスし、12時には就寝するようにしています。

お酒は好きですが、対局前日は飲みません。飲むと寝つきはいいわりに、確実に夜中に目が覚めてしまうからです。食事は寝る3時間前までに終了。血糖値が一気に上がると頭脳が働かないので、対局のときは食べる順もサラダからにして、3食きちんと食べるように心がけています。

寝具は、日本将棋連盟とコラボしている昭和西川さんから商品を提供してもらってます。タマゴ型フォルムのウレタンフォームが体を自然に支えてくれるマットに、寝返りを打ってもしっかり頭を支えてくれるオーダーメードの枕。おかげで睡眠の質がぐっと高まりました。

問題は地方での対局です。寝具一式を持って移動するわけにはいかず、かといって慣れない環境では寝つきに時間がかかります。解決策として、いつものジャージーと首巻きタオルを持参するようにしています。実は昔から母に「風邪をひかないように首にタオルを巻きなさい」と口癖のようにいわれてきたんです。冬場には喉の乾燥防止になるし、いつものグッズがあれば自宅環境を再現できるのでリラックスできて役に立っています。

最近は香りにも注目しています。以前、競馬騎手の福永祐一さんから、「レース前には必ず柑橘系のアロマを焚いて集中力を高めている」という話をうかがい、僕も対局中に取り入れるようにしました。昼食後の対局は眠気に襲われることもあるので、ハンカチに含ませた柑橘系やローズマリーの香りで、集中力を取り戻すようにしています。ラベンダーなど、副交感神経を優位にする効用がある香りを睡眠時に取り入れられないか、今、思案中です。