イノベーションは既存のものから生まれる

そもそもイノベーションとは、何でしょう? 1911年、初めてイノベーションを定義したとされるオーストリア出身の経済学者・シュンペーターは、イノベーションを「新結合」と呼びました。

具体的には、画期的なアイデアや優れた技術から、社会的意義のある「まったく新しい価値」が創造されること。何もないゼロから何かが生まれるというより、むしろ既存のAが、まったくかけ離れた世界にあるBと結びつくことで、新たな価値が生まれるという概念です。

近年、その好例としてよく挙げられるのは、スマートフォンやH&Mなどのファストファッション、無料コミュニケーションアプリ「LINE」、あるいはロボット掃除機の「ルンバ」(アイロボット社)でしょう。

“驚くほど画期的”である必要はない

ルンバには、優れた「空間認識」技術が搭載されています。この技術は、もともとアメリカ発のアイロボット社が有していた、軍事用ロボット(偵察や爆発物処理など)向けの技術。そのテクノロジーと掃除機を「新結合」させることで、「掃除機が自分で部屋を動き回って掃除してくれる」という、まったく新しい価値を生み出したのです。

田中道昭・牛窪恵『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか? アマゾンに勝つ! 日本企業のすごいマーケティング』(光文社新書)

先の「プチッと調味料」シリーズも、従来型の「鍋は、家族みんなで食べるもの」「鍋つゆは、大容量のパウチ容器で売られるもの」という既成概念から脱し、「コーヒーミルクなどを入れる、1人前のポーションに入れてみたら?」というアイデアを具現化したからこそ、その後の大ヒットにつながったと言えますよね。

そう、必ずしも「驚くほど画期的な技術」が伴わなくても、イノベーションは起こせます。大事なのは、旧来のマーケットとは違う未来のマーケットを、冷静に予測する力。あるいは、長年当たり前と思われてきた既成概念に対し、「今後もそう言えるのか?」と疑いの目を向ける力。そして、「だったら、こうした『新結合』が可能なのでは?」と、前向きに発想を膨らませ、新たなアイデアを具現化する力、ではないでしょうか。

写真=iStock.com 画像提供=エバラ食品

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター

マーケティング会社インフィニティ代表取締役。修士(経営管理学/MBA)。2020年4月より、立教大学大学院・客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。財務省・財政制度等審議会専門委員、内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか、著書を機に流行語を広める。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。