役員会は依然として男だらけ。課題は残る

【白河】試行錯誤を経て、今ではあらゆる職場、あらゆる階層でダイバーシティが進んでいるようですね。そうすると、女性活躍に関して悩むところはどこになりますか?

【片野坂】個人的には「浸透度」で悩んでいます。宣言する、制度を作る、推進するなどは実行してきましたが、現実の職場がどうなっているか、しっかり見ることができているのかと。もしかすると、制度に当てはまらずに取り残されている人がいるかもしれない。こうした「Left Behind」をきちんと発見して、減らしていきたいのです。言い換えれば、インクルージョンが進んでいるのかどうかということですね。

【白河】ダイバーシティはある程度進んで、次はインクルージョンだということですね。「Left Behind」は、どう発見していこうとお考えですか?

【片野坂】これはもう、さまざまな職場へ行って直接社員の意見を聞く、表情を見る、雰囲気を感じとる、といったことが一番ではないでしょうか。かつて当社にはメンター制度がありました。その話し合いの場に「私も入れてくれ」と乗り込んだことがあります。社員の本音が聞ける貴重な機会になりました。

【白河】どの課題に対しても自分なりの打ち手を用意して、しっかりと解決に導かれているのがわかります。ANAグループは女性の多い職場として長い歴史がありますから、他の企業とは蓄積が違うかと思いますが、女性活躍に関してはやはりトップの旗振りが大きいと思います。

【片野坂】女性活躍への取り組みは、最初は反対の声や冷めた声があっても、実行してしまえば達成できるものなんですよ。実際、実行した施策についてやめてくれという声は上がっていませんし、男性たちの反乱も起きていません(笑)。しかし、役員会に出席してみれば、周りは依然として男だらけです。両立支援も育児に偏っていて、結婚や育児をしない社員に対する施策はない。まだまだ課題は多いと思っています。

【白河】すでに次の段階に入っていらっしゃいますね。女性登用は“ゲタ履かせ”の段階をとっくに超えていて、男職場・女職場へも双方で進出する人が増えています。あとは個々の意識の中にある無意識のバリアの撤廃さえ進めば、女性の活躍度は自然に、さらに上がっていくのではないかと思いました。ありがとうございました。

片野坂 真哉(かたのざか・しんや)
ANAホールディングス 代表取締役社長

1955年、鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年全日本空輸(ANA)に入社。2004年人事部長に就任。上席執行役員、常務、専務、ANAホールディングス副社長などを経て15年4月から現職。趣味は音楽鑑賞とガーデニング。

白河 桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学大学院特任教授、女性活躍ジャーナリスト

1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策策定に参画。婚活、妊活の提唱者。著書に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など多数。