相続の入り口から出口まですべて一括してお任せ。
手数料は高いが確実

信託銀行が取り扱っている遺言信託の利用者が増えているという。

遺言信託は、遺言書の作成アドバイスならびにその保管・執行を請け負うサービスだ。高齢化社会を迎えたいま、財産の管理や移転といった信託業務を取り扱える信託銀行ならではのサービスとして、営業にも力が入っているようだ。

相続の問題は、相続税よりむしろ、どう円満に分割できるかが最大の問題だ。その秘訣は「3つのS」、すなわち「債務」「祭祀」「妻子」を尊重すること。要は、誰が借金を引き継ぎ、誰がお墓を継いで、誰が母親の面倒を見るのか、ということだ。それを負担する相続人に対して、優先的に財産分けしていけば、遺産の分割は比較的円滑に進む。

遺言信託の流れ

遺言信託の流れ

この内容をあらかじめ遺言書で残せば相続人の財産争いは避けられる。元気なうちから実際に相続が起きた後のことまで一括して請け負うのが、遺言信託の特徴だ。

ポイントは、まず遺言書の作成。遺言書がないまま相続が発生すると、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があるが、その過程で揉めてしまうことも多い。それを避けるためにも、特に相続財産が多い場合は、遺言書を作成しておくことが重要だ。

遺言書は自筆でも可能だが、公証役場で証人2人以上の立ち会いのもと、公証人に遺言の内容を口述して作成してもらう「公正証書遺言」が確実。作成した後、原本は公証役場が保管し、信託銀行などは正本と謄本を保管する。相続が起きたときには遺言の内容を適正に実行する執行者を信託銀行の行員が引き受け、財産目録の作成や有価証券の換金、不動産の名義変更手続きなど、相続の手続きを代行する。相続税が発生するときなどは、必要に応じて弁護士や税理士などの専門家の紹介も受けられる。

料金体系は信託銀行によって異なるが、基本手数料が10万円から30万円程度。これは、遺言信託を申し込んだときに支払う。そして、遺言書の保管料は年間5000円から1万円程度。それほど高くないように見えるが、実は、相続が起きてからの手続きにかかる執行手数料の料率が、相続財産額に対して約1.2%。相続財産額が10億円だったら、900万円弱はかかることになる。もちろん、相続財産額が少なければ、それだけ執行手数料も少なくなるが、最低手数料額は100~150万円。相続人が負担するには決して安くはない金額なので十分考慮して取り組もう。

(構成=鈴木雅光)