もっとも、細かい部分をみると、依然としてさまざまな“ズレ”を感じずにはいられない。ここでは具体的に2点指摘したい。

第1に、人手不足の状況下、就職氷河期世代の労働力を“安易に”活用しようという意図が透けてみえることである。もちろん、人手が足りないなか、「働きたいのに働けていない」、「よりスキルの高い仕事に就きたい」といった同世代に対して、労働者として活躍できるようサポートすることに異論はない。女性やシニア、そして外国人にだけでなく、就職氷河期世代にも目を向けるべきだ。

ただし、人手不足の業界での労働力活用が本支援の起点であれば、デリケートな面も抱える同世代に対して支援が効果なく終わりかねない。5月29日に厚生労働省が公表した支援プランでは、正社員につながる資格取得支援にとりわけ人手不足が強い業界が中心に挙げられている(図表3)。

学卒後、長期にわたり無職または不本意な職務環境に身を置かざるを得なかった就職氷河期世代の人たちが、今になって自身の学生時代の専門や経験などとはかけ離れた業界で人手が足りないから就業してみてはと促されても、二の足を踏んでしまうのではないだろうか。

また、短期間での取得資格が“長期間安定的な”正社員就労につながるかといった疑問もある。こうした形の支援は、当事者たちの自尊心を傷つけることにもなりかねない。

企業が求めるスキルやニーズとのズレ

第2に、従来の手法と変わらない点が少なくないことである。前述の厚労省の支援プランでは、伴走支援・相談窓口の担い手としてハローワークが、また、正社員就職につなげる事業として教育訓練、職場実習など、これまで目にしたものが並んでいる。

例えば、相談のきっかけ・入り口として、これまでと同様のハローワークに、さまざまな事情を抱えた就職氷河期世代の人たちがどれほど自発的に足を運んでくれるかには疑問が残る。そして、教育訓練や職場実習を行うにしても、そもそも企業が求めるスキルやニーズとかい離しているとする現場の声も多い。

このように、さまざまな“ズレ”を抱えた状況で支援策が実行に移されれば、現場で使えるスキルやニーズの習得には至らず、結果として、格差の解消につながらない、支援の利用低調で予算の使い残しに終わる、また、就労支援を担う民間事業者へ補助金が支給されるものの、効果が薄く終わるといった事態にもなりかねない。