隠れて手抜きする娘をきつく叱る「兄」これがハマり役
両親ともに熱くなりすぎてしまった息子2人の受験の苦い経験で、ある程度冷静に対処できるようになったことで、娘の受験は順調に進んだかのように見えた。ところが……。
1つだけ困ったことがあったという。
それは、娘がちょっとだけ手を抜くところだ。毎日やるべき基礎教材を「やってるの?」と聞くと、「うん、やってるよ」と平然と答える。しかし、念のためチェックしてみると2週間もサボっていることがあった。
「親にバレないように、ちょっとだけサボるんです。塾の先生からも勉強で手を抜きがちなことは指摘されていました。まあ、私も細かくチェックしなかったので、ついサボっちゃうのは仕方ない面もあると思います」
おそらくこの緩いペースで桜蔭を受験していたら、失敗していたに違いない。救世主は意外なところから現れた。兄たちが手抜きをした娘を厳しく監督し、叱るようになったのだ。年の離れた兄たちは、娘にとって第2の父のようなもので、大好きだけど怖い存在でもあるのだ。
「叱られた娘が一度家を飛び出して、暗くなるまで帰ってこないことがありました。長男と2人で必死に探し回ったことをよく覚えています」
しかも、このプチ家出体験に懲りて、娘は、その後はおとなしく、かつマジメになるかと思いきや、その後もちょこちょこサボっていたという。そんなときも兄たちのフォローで徐々にHさんは実力をつけていった。
合格ママ曰く「私は柵の壊れた牧場を守る牧羊犬」
母親は、自分のことを「牧羊犬」と表現する。
「うちの牧場は柵も壊れ気味でしっかりした囲いはありません。その牧場で娘は放し飼いにされていて、普段は好きな場所で寝て、好きなだけ牧草を食べています。そうやって基本的には自由に過ごさせているから手抜きもやりやすいんです。ただ、牧場から著しくはみ出してしまいそうなときだけは、私が『ワンワン』って吠えて牧場に戻すんです。たまに、“兄犬”たちも手伝ってくれますし(笑)」
子供を1から10まで管理はできない。また、仮に管理ができたとしても、それでは子供は成長しない。ある程度、自由にさせて、そのなかで自主性を育んでいくほうが最終的にはいい方向に向かうと、2人の兄の受験を通じて学んだと話す。
「中学受験って思い通りに行かないことの連続ですよね。でもその思う通りに進まないことも大切な経験なんだなって。そのときどう考え、どう行動するか。その試行錯誤が、人が成長するのに必要なステップなんだと思います。娘にもそう話していましたし、自分自身にも言い聞かせていました」
子供に任せることは、時に親として不安になる。しかし、それが最善と悟り、娘を見守ることに徹した母のサポートが最終的にHさんを桜蔭合格に導いたと言えるかもしれない。