▼就業規則
部長と平社員、罰の重さが違う
会社に内緒の副業、就業時間中に株やFX、会社のスマホで再生するアダルトサイト。「懲戒」の対象になるのか?
「懲戒には、一般的な要件がいくつかあります」と語るのは弁護士の千葉博氏。1つは「就業規則に規定があること」。2つめは「平等の原則」。以前にも同様の事案があれば、同じ処分がふさわしい。3つめは「相当性」。罪が重すぎてはいけないということだ。
「相当性は企業秩序の侵害の程度に照らして考えます。会社と個人は対等な立場にある。しかし、雇用契約を結んだ途端、懲戒権が発生し、雇用者が一方的に縛られるのはなぜか。そこにあるのが『企業秩序』という概念。『企業秩序を害することで会社が不利益を被った、だから罰を与える』という理屈です。従って懲戒の重さは、企業秩序侵害の程度によります。仮に、有名企業の社員が、宝石店で窃盗を犯したとする。総務部長と平社員では、企業秩序に与える影響は違います。総務部長がやったとなると社内に動揺が走るし、ニュースになり企業の体面を汚すかもしれません。このように立場や状況でも、罰の重さは変わります」
具体的な事案を見てみよう。「会社に無断で副業したら、懲戒になるのか」。会社に「副業禁止」の規定があるからといって即「懲戒の対象になる」ことはない。就業時間外の副業であれば企業秩序を侵害しているとは言えないからだ。
「懲戒にするには、『企業秩序侵害が大きい』と言えるだけの事情が必要です。例えば、副業で疲れて就業中に寝てばかりいる、ライバル企業でアルバイトをして企業秘密の漏洩の恐れがある、などです」
次に「就業時間中に株やFX、SNSをやっていたら」。就業規則にそれを禁じる規定があれば、懲戒の可能性も。ただし、規定になくとも、「職務専念義務」に触れれば懲戒の可能性もある。職務専念義務とは、どの程度のことを指すのか。
「1秒でも仕事以外のことを考えたら違反というのは極論で、現実的ではありません。判例の多くは『程度問題』としています。『週に1回、私用メールを送った』程度では、職務専念義務違反とは言えません。懲戒解雇された判例は、1年で私用メールを数百通といった極端なケースです」
「誰が何をやったのか」も考慮するべきファクターだ。
「学校の先生が出会い系サイトにアクセスし、メールを頻繁にやりとりしていた例があります。教育者と出会い系サイトの組み合わせは最悪。企業秩序の侵害が大きく、懲戒の対象になると考えられます」
「会社のスマホでアダルトサイトを見ていた」はどうか。
「勤務時間中なら、職務専念義務違反ですが、勤務時間外なら、企業秩序侵害の範囲外ですから、原則、懲戒にはならないでしょう」。ただし、会社に不利益を与えたら懲戒になることも。
○:極端なケース以外は、大丈夫
×:1秒でも仕事以外のことを考えてはダメ