知財が専門の弁護士を配置して組織的にサポート

これまで東大では、企業と共同研究を進めるにあたって契約書のひな型をいくつか用意し、それをベースに企業と契約を結んでいました。しかし、少し考えてみれば分かるように、契約書の内容はプロジェクトごとに大きく変わってきて当然です。

また、研究開発には特許がつきものです。企業と大学との共同研究で、かなりの数の特許を申請することがあります。ただ、これまで東大では、研究者に対して、特許の申請や、特許技術が有効に活用されるようにするためのサポートなどを、組織的に十分な形で展開することができていませんでした。

そこで、知的財産を専門とする弁護士を幹部職員として迎え入れ、企業がビジネス展開しやすい環境を整えることにしました。また、企業との共同研究では、これまでも共同出願の特許を申請するケースは多く見られました。しかし、研究者の素晴らしい研究成果については、共同研究が始まる前に単独で特許を取得しておくことも非常に重要です。そのための特許出願サポートも進めています。

「産学連携」ではなく「産学協創」を目指す

企業との共同研究では、利益相反を上手にマネジメントすることも非常に重要です。企業は営利追求を第一に活動していますが、大学では真理の探究を第一義的な目標としています。お互い方向性の異なる目標を持っているため、共同研究を進めるなかで、教職員が企業と大学の間で板挟みになってしまう危険もあります。大切なのは利益相反を避けることではなく合理的にマネージすることです。東大では、そのために、規則やガイドラインを整備し、企業も大学も安心して共同研究が進められるような仕組みを整えています。

また、これは当然のことですが、秘密保持を徹底するための環境も整備しています。このようにして企業と大学は、お互いに信頼し合って連携する条件がはじめて整うのです。

大学という公共財を社会のために活用するという観点から、せっかくなら「産学連携」ではなく、さらに踏み込んだ「産学協創」を目指したいと私は考えています(図表2)。旧来の産学連携では、先に述べたとおり、企業と大学の研究室がボトムアップで個々に連携していました。しかし、東大の提唱する「産学協創」では、トップ同士が実現すべき未来社会像を共有した上で、企業と大学がそれぞれ組織レベルで協働し、そこに向かうための具体的な連携を進めることを目指しています。