そんな危機感を持っていた営業職の女性たちが、「なりキリンママ」という試みを提案した。上司や同僚も巻き込むことを想定し、彼女たちは3つの目標を掲げたという。
1 自分たちで「営業ママ」を仮想体験してみる(当事者)
2 上司にもどういうマネジメントが必要なのか体感してもらう(上司)
3 同僚にも営業ママがいるチームを体験してもらい、そこから得たヒントを組織の運用に活かす(同僚・組織)
この実証実験は大反響を呼び、「なりキリンママ・パパ」という研修制度として全社展開されることになった。子育てが終わった世代や、子どもがいない社員向けに「親の介護」と「配偶者の看病」という設定も追加された。対象社員には、家族や子どもの急病など、緊急事態を知らせる電話が前触れなしにかかってくる。
「なりキリン」は18年2月から6月にかけて一部の内勤部門と営業部門で実施され、このうち4分の3が男性。管理職では5割が経験した。
「弊社のイノベーティブな女性たちから提案されて、私も親の介護を体験してみたんです」と藤川さん。
「普段は朝7時出社なのですが、9時から17時半で働くというだけで見える景色がまったく違う。朝、駅に向かう途中、子どもを保育園に送っていく男性を見たときは新鮮でした。呼び出しの電話は、組合との交渉中にかかってきて、ひやりとした(笑)。制約を抱えながら働く人の気持ちが初めてわかりました」
残業が減ると、手取り収入が減ってしまうという問題もある。報酬体系の見直しはあるのだろうか。
「確かに、残業代を生活費の一部と考えている人もいる。そこは今後、検討すべき課題ですね」と藤川さん。
「ただ、削減した残業代はプールするのではなく、社員の自己啓発などに投資していきたい。リーダーには『人材育成が最優先事項。今日1本売るより、数年後にもっとたくさん売ることを考えてほしい』と言っています」