若手研究者の可能性をつぶす政策

文部科学省は前述のように、2016年度から全国の国立大学を「世界最高水準の教育研究」「特色分野の教育研究」「地域活性化の中核」を目指す3つに分類したが、この分類は地方国立大学の若手研究者の可能性を押しつぶしかねないという声がある。

これもすでに述べたが、2013~15年の3年間に日本が出した論文数は、10年前のアメリカに次ぐ世界2位から5位に下がった。その主要な原因を探ると、文部科学省の科学技術・学術政策研究所の調査によれば、2013年の勤務時間に占める研究活動の割合は35.0%で、2008年の前回調査から1.5ポイント低下したことにある。2002年の初回調査に比べると、10年あまりで10ポイント以上減っているのだ。その間の2004年に国立大学法人化が始まった。

疲弊する現場の大学教員たち

この研究活動の減少の背景には、何があるのか? 同研究所の「科学技術の状況に係る総合的意識調査」から「若手研究者が独立した研究の障害となる要因」をみると、

(1)短期間で成果を求められ、主体的な研究活動ができない
(2)研究資金の不足
(3)必要とする事務支援や技術支援が得られない

という理由が挙がっている。これらは大学教員の各世代でほぼ共通しているが、特にこの悩みは、30代以下の若手研究者に多い。

若手の大学教員に聞くと、アクティブ・ラーニング、初年次教育、留学生への対応など、学生の教育に充てる時間の増大を指摘する声が目立つ。そのような声は教育の多様な展開に積極的に取り組んでいる国立大学や私立大学に比較的多い。研究か教育か、大学教員の持つ昔からのジレンマと言えるかもしれない。

また前述の調査における「研究活動の増加に有効とする手段は」という問いに対しては、大学教員の全体の6割以上が「大学運営業務や学内事務手続きの効率化」と回答している。煩雑な事務手続きに時間を費やしている現状がわかる。文部科学省と財務省による競争的資金を利用した大学リストラ政策が、このような状態を生み出したと推測できる。

国公私すべての大学に共通して、こうした業務と教育・研究に現場の教員は疲弊している。AI(人工知能)やICT(情報通信技術)化によって事務効率を高めて時間の余裕を生み出し、研究活動や教育の質の向上に繋がる環境の整備が急がれる。