世界最速ランナーから学ぶコーチングとメンタル術
パワハラ、暴力、理不尽な指示……。2018年の日本スポーツ界は指導者の「質」が問われるような不祥事や出来事が頻発した。これはコーチ(監督)が選手よりも“上”の立場にいるという日本のスポーツ界特有の人間関係の弊害だろう。欧米では一般的にコーチと選手は「フラットな関係」だ。
では、欧米以外の地域はどうなのか。今年9月のベルリンマラソンで2時間1分39秒という驚異的な世界記録を打ち立てたケニア人のエリウド・キプチョゲ(34)と、コーチで同じくケニア人のパトリック・サング氏(54)を今年11月上旬に都内で取材した。
現在34歳のキプチョゲは18歳の頃からサング氏の指導を受けているが、コーチに求めていることは3つあるという。
「スポーツのコーチであり、ビジネスのコーチであり、人生のコーチでもあることです。ずっと同じコーチについていますが、彼から多くのことを学んでいます。私が望んでいるのは、コーチ自身が選手の模範になってくれることです。この16~17年、競技だけでなく、あらゆる面でコーチングをしてくれたからこそ、このような成功があると思っています」
日本の指導者にも耳を傾けてほしい言葉である。いかに優れたコーチング技術を持っていたとしても、どんなに勝ち続けたとしても、人間として模範的できない者は、「コーチ」として未熟と言わざるをえない。
監督・コーチは選手起用に関して、絶対的な権限を持っている。そのため、選手は「イエスマン」になりやすい。しかし、だからといって、選手たちは監督・コーチを尊敬しているとは限らない。選手たちが監督・コーチを逆にジャッジしていることを知っておくべきだろう。この関係性はスポーツだけでなく、ビジネスでも同じだろう。上に立つものは、人生のコーチも求められていると考えたほうがいい。
54歳のコーチはキプチョゲをどのように育てたのか
一方、サング氏は、「コーチは目指すべきゴールに向かって、プログラムを作り、選手と一緒にがんばる。それは新しい場所へ一緒に行くことに似ています」とコーチングについて表現している。なかでも重要視しているのは、メンタル面だ。
「選手の能力は個々で違いますが、いつも気にかけているのは、選手がどんなメンタルでいられるのかということです。心が軽くて、開いているとコーチしやすいと思います。そして、スタートラインに立ったときに、『自分が最高だ』という自信を持てる状態に仕上げること。それがコーチとしての最後のまとめになります」