スター歌姫を見て「己の生き方」を考える女性ファン
歌手の安室奈美恵が9月16日、芸能界を引退した。
メディアや人々の反応を見ると、彼女の引退に関して、これまであまり興味を持っていなかった人も少なからず「喪失感」を抱いているように思えた。「平成の歌姫」が去ったことで、同時代を共に駆け抜けた多くの人たちが「時代の終わり」を実感したのではないだろうか。
とりわけ女性にとって、安室の「生き方」は極めて影響力が大きかったと言える。
時代を象徴するスターは、安室に限らず、一般人の「生き方の基準」という役割をしばしば背負うことになる。今回、「女性と時代」という観点から、歌手・安室奈美恵について考えてみたい。
1925(大正14)年、日本で初めて普通選挙が実施された際、参政権は男性のみ。女性に参政権が認められたのは1945(昭和20)年のことだ。つまり、女性の「権利」が認められてまだ73年しか経過していないことになる。
このことも反映しているのか、日本の女性議員の数は衆議院で10.1%、参議院で20.7%(2018年4月現在)。世界の国会議員が参加する列国議会同盟(本部:ジュネーブ)の調査(2018年)によると、日本の女性議員数は世界193カ国中158位だ。また、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数(2017年)が発表した経済・教育・政治・保健の4つの分野での男女格差を測るデータランキングでは世界144カ国中114位という結果だった。
要は、下から数えたほうが早いのだ。
安室奈美恵は日本女性の「ガラスの天井」を破ったか
これらの数字からも分かるように、日本は今現在も女性にとっては、「ガラスの天井」が立ちはだかる国なのである。慣例とか風習とか前例とかというものの壁は厚く高い。本当にわずかずつしか変わらないものなのだろう。
ただ、歴代の「歌姫」の人生を見るに、彼女たちは時代を少しずつではあるが、確実に進化させているということに気が付くのである。
「昭和の歌姫」といえば、平成の幕開けと共に世を去った歌手・女優の美空ひばり(1937-1989)の名を思い浮かべる方も多いだろう。説明不要のスター中のスターだが、プライベートでは“しがらみ”もあった。
小林旭との幸せなはずの新婚生活でさえ、「一卵性親子」と呼ばれるほどの母親の圧力には勝てなかった。結局、「芸を捨て、母を捨てることはできなかった」という言葉を残し、離婚している。
この時代の多くの女性たちは「親の意向」「社会の意向」「世間体」に逆らう術がなかった。常にスポットライトを浴びる大スターでさえ、そうした“しがらみ”から逃れられない。美空ひばりの離婚は、その象徴だったと思う。