確かに、どんなものでも証拠になる。しかし、その能力と価値は別物で、IT化によって証拠の価値も変化しつつあるのだ。

証拠として価値が高いのは直筆

「民事裁判にメールやラインを証拠に出すケースが増えています。第三者とのやりとりが時系列でわかり、作成日や送信時刻が特定できて証拠に使いやすい。パワハラの場合、上司とのやりとりのメールを証拠として持ってくる依頼者が多く、立証もしやすいです」

写真=iStock.com/Zolnierek

こう話すのは労働問題に詳しい伊東良徳弁護士で、「民事訴訟法上、証拠能力についての規定は何もなく、基本的にどんなものでも証拠になりえます。相手との面談や電話の無断録音、無断録画も証拠として排除されることはまずありません」と説明する。とはいえ、その証拠の能力と価値は別物で、「裁判所が証拠として認めるかどうかが証拠能力で、どれだけ自分に有利に働くかが証拠価値です」と伊東弁護士はいう。

たとえば、日記。直筆のほか、パソコンやスマホで記録している人もいるが、証拠として価値が高いのは直筆。筆跡で本人かどうかを特定できるからだ。デジタルの場合、本当に本人が書いたのか確証が得にくい。ただし、パワハラやDVなどを家族、友人、同僚ら第三者に相談したメールやラインは証拠価値がより高い。

録音データはどうか。パワハラをICレコーダーで録音したものは証拠になるが、やはり証拠価値とは別物。「実際は使えないことのほうが圧倒的に多い。当事者は自分に有利に解釈する傾向があるからです」(伊東弁護士)。

録音データを裁判官が実際に聞くことは期待できず、弁護士も忙しいため、伊東弁護士は依頼者に反訳書(文字データ)をつくるよう伝えるという。「録音のスクリーニングと、依頼者の意欲を見ることが狙いです」。