成功するには自信が必要だといわれる。一方で、過剰な自信は身を滅ぼすともいう。どちらが真実なのか。世の中のありとあらゆる「成功ルール」を検証した全米ベストセラー『残酷すぎる成功法則』(飛鳥新社)によると、「この矛盾は、自信を持つことのメリットのすべてを含み、デメリットは一切含まない別の感情によって解決する」という。最新の心理学が「セルフ・コンパッション」と呼ぶその感情とは――。

※本稿は、エリック・バーカー・著、橘玲・監訳『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

「私が悪かった」と言えるリーダーほど好かれる

私たちは前進し続け、他者を味方につけるために楽観主義と自信を必要とする。しかし、問題点を見つけて改善するには、否定的な考え方と悲観主義が必要だ。つまり、成功するには、楽観主義と悲観主義の両方が欠かせないのだ。

エリック・バーカー(著)、橘玲(監修、翻訳)、竹中てる実(翻訳)『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』(飛鳥新社)

エイブラハム・リンカーンが良い例だ。彼こそは、これまで見てきた控えめな自信の長所を体現している。彼は自分と異なる考えに対してオープンで、提案される戦略内容に精通していられるように、膨大な時間を費やして陸軍省に入る電報に目を通した(事実、リンカーンは新しいアイデアに非常に関心が高く、特許を持つ唯一人の大統領でもある)。

リンカーンは誰に対してもオープンだった。そのリーダーシップに焦点をあてた研究によると、おそらくリンカーンはアメリカ史上、最も近づきやすい大統領だった。その時間の75%以上を人と会うことに費やしたという。また、南北戦争初期に志願したすべての北軍兵士と会ったとされている。

リンカーンならきっと、ネットワークづくりは友だちづくりという考え方に共鳴しただろう。「諸君よ、もしあなたが誰かを味方につけたいなら、まずあなたが彼の誠実な友であることを納得させよ」とは本人の言だ。それでは、完全に敵対的な相手には、どのように対応したのだろうか? 「友人になることによって、私は敵を滅ぼす」。

リンカーンは謙虚だっただろうか? その通り。何のためらいもなく自分の過失を認めた。北軍総司令官、ユリシーズ・S・グラントに充てた書簡でも、率直に自分の非を認めている。

「貴殿が正しく、私が間違っていたことを、ここに個人として認めたいと存じます」

そもそも「自信をどのぐらい持てばいいか」考えるのはムダ

調査によれば、こうした謙虚さは報われる。弱みを示し、自分を過小評価する上司は最も人気がある。スタンフォード大学ビジネススクールのフランク・フリンによると、自分の非を認める人は、同業者から好ましいリーダーとして見られる。また、アメリカ海軍での調査では、人望のあるリーダーは、民主的で、話をきちんと聴く技能にすぐれた人物だった。乗員たちは、緊急時を除いて、上官が意思決定に際し自分たちの意見を聞いてくれることを望んでいる。