楽観主義の欠点を補う「2つの魔法の言葉」
ポジティブな自分への語りかけと楽観主義は、たしかに諦めずに目標を追求できるように助けてくれるが、それ自体が目標達成を保証してくれるわけではない。もちろん、夢見ることが本質的に悪いわけではない。が、第一歩にすぎないのだ。その次に、せっかくの夢に水を差すおそろしい現実と、どこまでもつきまとう障害に立ち向かわなければならない。
だから、目標を夢見た後にこう考えよう。
「夢を実現する道のりに立ちはだかるものは何か? それを克服するにはどうすればいい?」
この過程は、しゃれた心理学用語で言うと「実行意図」であり、平たく言えば「計画」である。
ニューヨーク大学の心理学者、ピーター・ゴルヴィツァーとヴェロニカ・ブランドスタッターの研究によれば、たとえば、目標を達成するための行動をいつ、どこで、どのように取るかなど、ざっくりと計画しているだけで、学生たちが目標を実現できる確率が40%上がったという。
2つの魔法の言葉は、「もしも(If)」と「そのときは(Then)」である。予見できるどんな障害に対しても、「もしXが起きたら、Yをすることで対処しよう」と考えておくだけで、結果は大違いだ。この2つの言葉がどれほど強力かというと、とても深刻な行動上の問題を持つ人びとにも効果を発揮する。
たとえば離脱症状がある薬物中毒者の場合、「IF-THEN」の実行意図を取りいれずに、何人が履歴書を書きあげられたかというと、結果はゼロだった。ところが、事前にこの魔法の言葉を使用していたところ、じつに80%の人が仕事に応募できたのだ。
起こりうる最悪の事態は何か?
どうしてこれほど効果覿面なのか? それは、無意識の脳を関与させているからだ。ただ問題が起こるのを待つかわりに、いざというとき脳が自動的に実行できる習慣的反応をあらかじめ用意しておくのである。
この手法のルーツは、古代哲学から近代の精鋭軍隊までいたるところに見られる。ストア哲学者たちは「前もって災いについて熟考する」と呼ばれる概念を用いていた。それは、「起こりうる最悪の事態は何か?」と自分に問いかけることだ。
つまり、あえておそろしい可能性について考え、それに対する備えがあるかどうかを確かめるように説いた。また米陸軍特殊部隊は、あらゆる任務の前に時間を取り、「IF-THEN」の一種を実行している。
作家のダニエル・コイルによると、「彼らは午前中をまるまる費やし、任務中に考えられるありとあらゆるミスや災難を想定する。起こりうるすべての混乱が徹底的に調べられ、それに対する適切な措置が確認される。「もしヘリコプターを不時着させたらXを実行する、もし間違った地点で降ろされたらYを実行する、敵の数が上回っていたらZを実行する」といった具合だ。