森友学園問題が最初に報じられたのは2017年2月。当時から多くのマスコミは、「国有地の大幅値引きには安倍昭恵夫人の関与があり、その陰では『総理の意向』が働いていた」というストーリーを展開してきた。そのストーリーに沿って、設立予定だった小学校の趣意書に書かれていた校名が「安倍晋三記念小学校」であったなど、数多の報道がなされた。

たとえば、この趣意書に書かれていた小学校名が「安倍晋三記念小学校」ではなく、実際には「開成小学校」であったことをご存じだろうか? この情報は昨年12月22日付『朝日新聞』で報じられたが、それまで「安倍晋三記念小学校」という誤った情報は半年以上も放置され、それが謝罪とともに訂正されることもなかった。

実態は「近畿財務局のチョンボである」

さて、この問題が報道されはじめた当初から、森友学園問題と安倍総理は無関係であり、実態は「近畿財務局のチョンボである」と、筆者は繰り返し述べてきた。しかし財務省の責任についての議論は、一向に起こる気配すらなかった。

そして、今年3月に財務省による決裁文書の書き換え疑惑が報道されて以降、どういうことか、「総理の意向」というストーリーがさらに強化された。3月20日付『朝日新聞』には、<改ざん把握いつ、追及「事実関係確認できるのは財務省だけ」官僚に押しつける首相>というタイトルの記事が出た。そこには記者が「使える」と判断したのだろう、筆者と同じような経歴をもつ大学教授のコメントが掲載されていたから、引用しておこう。

<公文書改ざんという危険を冒すことは、やはりよほどの政治的な圧力でもない限りあり得ないことだ。「忖度(そんたく)」の領域をはるかに超えた行為と言える。今のままでは平行線の議論が続く。佐川氏の証人喚問は当然、安倍首相の妻・昭恵氏付の政府職員(当時)の国会招致も必要だ>

そして3月27日。佐川宣寿・前国税庁長官(当時の理財局長)の証人喚問が実施された。結果はご存じだろう。決裁文書の改竄は理財局のなかだけでやったことで、官邸には報告されていなかった。安倍首相、昭恵夫人、菅官房長官、麻生財務相らの関与はすべて否定され、指示も、協議も、相談もなかったと、佐川氏は証言した。1年前から筆者が指摘し、マスコミが無視してきたことが、証人喚問で語られたのである。

この間、国会の一日の開催予算が3億円とすれば、1000億円もの税金が費やされた。証人喚問後、一部のマスコミは証言拒否が多かったことを理由に「疑惑が深まった」と報じたが、現在の法律では、佐川氏自身が刑事訴追の恐れのある事実に限られる場合にしか証言拒否は使えない。彼は自己の権利を行使しながらも、真相解明に協力したといえるだろう。

マスコミにとっては、この証人喚問も「使えない」ものだったかもしれないが、正当な権利である証言拒否について「疑惑が深まった」としている時点で、その“疑惑”は“思惑”にすぎない。