収入が高くなくてもせっせと貯める人が幸せに近づく

同じく米アリー銀行の調査で「年収と幸せ」の関連性についてのデータもあります。年収別に「非常に幸せ」、「とても幸せ」と答えた割合は次のようなものでした。

●年収と幸福度の関係(25歳以上の一般人が調査の対象)
年収15万ドル(1581万円)以上 45%
年収10万ドル~15万ドル(1055万~1581万円) 48%
年収7万5000ドル~10万ドル(790万~1055万円) 43%
年収5万ドル~7万5000ドル(527万~790万円) 40%
年収2万5000ドル~5万ドル(263万~527万円) 25%

このデータでは7万5000ドル(790万円)を超える年収については、幸福度はほぼ横ばいとなっていて、前出のカーネマンの見解(収入が一定の「飽和点」に到達するとそれ以上幸福は増えない)とも一致しています。

写真はイメージです(写真=iStock.com/Astrid860)

これによって、人が感じる幸福度に影響を与えやすいのは年収の高さよりも貯蓄額の多さということが言えます。

僕は本連載で、富裕層の「本流」は、ゆっくりと時間をかけて資産を形成してきた堅実な中高年の人々だと主張していますが、幸福度の観点から見ても高収入を目指すよりも、高貯蓄を目指すほうがよほど幸福に資することが調査からは読み取れます。稼ぎを多くするより、収入がそれほど高くなくてもせっせと貯めるほうが幸福に近づくということです。

▼ところが富裕層は資産残高にまったく心が躍らない

では、調査対象を変えて、富裕層が考える「貯蓄額と幸福」の関係はどうでしょうか。

ハーバードビジネススクールとマンハイム大学の研究者らは、2012年と2013年にある大手金融機関が行ったアンケートを基にして4000人以上の富裕層を調査しています。

純資産が1500万ドル(15億8374万円)超の超富裕層の人生満足度(幸福度、最高が7ポイント)が5.84であるのに対して、150~290万ドル(1億5837万~3億620万円)の富裕層のそれは5.79でした。10倍の資産を持っていても、幸福度は0.05ポイントの差しかありませんでした。

●資産額と幸福度の関係(富裕層が対象の調査 最高が7ポイント)
150万ドル~290万ドル(1億5837万~3億620万円) 5.79
300万ドル~790万ドル(3億1675万~8億3411万円) 5.81
800万ドル~1490万ドル(8億4466万~15億7319万円) 5.97
1500万ドル以上(15億8374万円) 5.84

つまり、前出の米アリー銀行の一般人を対象にした調査では、幸福度は純資産の影響が極めて大きいのに比して、富裕層の場合は純資産の多寡はもはやあまり問題にならないということなのかもしれません。

年収が幸福度に与える影響に飽和点が存在するように、純資産の効用も限界効用が逓減していうということかと思います。富裕層の立場になったら、いたずらに純資産額を膨張させていってもあまり意味がないということでしょうか。億単位をストックする者が、百万~千万円単位を貯めることに神経をとがらせてもしかたがないのです。