一方、会社は天引きした所得税を定期的に国に納付する義務を負っており、源泉徴収や年末調整を行うために莫大な事務コストを負っている。国は無料で徴税の手間をアウトソーシングしているともいえる。
個人にとっては、面倒な確定申告の手間がかからず、会社が代行してくれることで、事務負担が軽減できるが、結婚した、子どもが生まれた、離婚したなど、税額に影響するすべてを会社に報告する必要がある。これでは個人情報の保護もあったものではない。
先の税理士が、納税者の権利を拡大するための面白い提案を聞かせてくれた。それは、「納める税金の8割の使い方は国に任せ、残り2割の使い道は納税者自身が選択する」というものだ。
自営業者などが使用する確定申告書の最後に、老人福祉、中小企業支援、医療充実、少子化対策など、30程度の選択肢を印刷し、納税者はそこから税金の使い道を選択する。もちろん、源泉徴収と年末調整で納税が完了する会社員にもこのシステムを採り入れてもらいたい。
民意を汲む議員であれば、任された8割の使い道についても、国民の意見を反映しようと考える。そうなれば、問題となっている定額給付金といった使われ方はしないはずだ。
(高橋晴美=構成 ライヴ・アート=図版作成)