年齢:52歳
年収:特定の収入はなし。
貯蓄:運用資産約1億円
普通預金:約2000万円
住居:静かな住宅街に一戸建て。
月の生活費:40万円
10年後のビジョン:会社に戻る可能性もあるが、そのときは経営幹部に。
岡嶋さんは1955年、東京都生まれ。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校材料科学修士号取得。1981年、三菱重工業入社。88年、京セラアメリカ入社。その後、GM、アルコアなど外資系企業を渡り歩く。
「ベンツに乗りたがる人は早期リタイアに向いていません。カローラで十分。つまらない見栄やプライドがあると幸せなリタイア生活はできません」
東京都在住の岡嶋圭助さんは語る。
赤いカローラを愛用する岡嶋さんこそ実はベンツやポルシェなどを2~3台持つ条件を備えている。
かつて外資系の大手メーカーに勤めていた頃は取締役まで出世し、人がうらやむような高給をもらっていた。
つい最近、自ら退職した外資系の自動車部品メーカーでも副社長を務め、2千数百万円の年収を得ていた。
そんな高給をふいにして、いま岡嶋さんは会社勤めから足を洗い、自宅でのネットトレードで生計を立てている。運用資産は約1億円。外国債券をベースに残りの半分程度を株式で運用する。利回りは平均的に20%程度を維持し、今年の収益はいまのところ約2000万円に達した。
年初まではリート(不動産投資信託)に運用資産の9割ほどを注ぎ込んでいたが、そろそろ危ないと思い、今年1~2月にかけて、ほぼ売り切った。
「土地の高騰と建設ラッシュで、リートが上がると思って投資したのですが、世間で騒ぎ出していたものですから、これは落ちそうだなと判断して売りました。正解でしたね。週刊誌が記事にし始めたら売り時ですよ」
こうして得た資産を先に触れたように債券と株式に割り振った。
ポートフォリオの組み替えでは「失敗しない投資」をテーマに、リスクを軽減した。債券はイギリス、ドイツ、オーストラリア、南アフリカなどに投資し、いま人気の中国やインドは避けている。株式は10年後も安泰な国際優良株中心だ。銘柄はトヨタ、デンソー、キヤノンなど約15銘柄。
岡嶋さんの1日は朝、新聞一紙をじっくり読み、その後はネットでウォールストリート・ジャーナルとフィナンシャル・タイムズに目を通す。英語力は外資系会社で鍛えた筋金入りだ。
海外新聞では投資にとってリスクになりそうな情報を確認するだけだ。そこで、売買をするわけではない。
何事もなければ、午後は優雅にフリータイム。2日おきに大好きなゴルフや釣りに出かける。ゴルフは奥さんと一緒に出かけることも多い。
年5~6回はかつての仲間と海釣りやゴルフを楽しんでいる。その境遇をうらやましがられると笑う。
実は、かつての岡嶋さんは優雅とはほど遠いデイトレーダーだった。全世界のあらゆる情報を入手し、株価予想ソフトを駆使して毎日午前中に売買を繰り返していた。
利益は出していたものの「24時間、心が安まることがなく、会社で仕事するのと同じだ」と思い、50歳を機にデイトレードをやめた。
「かつては大損しても大儲けすればいいという投資スタイルでしたが、それは40代までの攻めのスタイル。50歳を過ぎて考え方が変わりました。私は100歳までは生きるつもりですから、その生活を守るために最低年利2~4%で回していくことに決めたのです」
岡嶋さんは東京工業大学大学院を修了後、米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校に留学。そこでアメリカのライフスタイルや考え方に触れた。
帰国後、大手重電メーカーに就職するものの、官僚的体質に嫌気がさして、退職。アメリカに渡り、職を得た。そこでアメリカのビジネスマンの生き方に影響を受けた。
「アメリカ人は会社では働かないが、家庭仕事は熱心にやるんです。それだけ家族を大切にしている。尊敬すべき上司からは合理性も学びました。彼は『評価すべきもの(資産価値のあがるもの)は借金をしてでも買え、評価しないもの(減価償却するもの)は中古で買え』といいましたが、必要なものには投資し、無駄なものにはコストをかけるなということなんです」
岡嶋さんはその後、帰国し、外資系メーカーに勤めるが、仕事は多忙を極めた。現在23歳となる長女と19歳の長男を持ちながら、当時は家庭を顧みる余裕はなく、そのうち長男が母親とぶつかり、家庭内が荒れ始めた。
岡嶋さんは家庭を大事にしたいと、2000年に44歳で退職。家族で一緒に食事し、妻とゴルフに出かけ、息子とテニスを楽しみ、娘と音楽ライブに興じた。家庭は落ち着きを取り戻したが、収入がないことが不安になった岡嶋さんは02年からネットトレードを始めたのだ。
現在定期収入はないが、絶えずキープしている普通預金約2000万円から必要に応じて引き出す。月の生活費は40万円から多くても60万円ほど。
あえて所得を増やさず、資産として保有している。そのほうが、所得税がかからず得だという。
岡嶋さんはケチや節約ではなく「無理のない合理的なコストダウン」をポリシーとしている。ゴルフも高給カントリークラブでなく河川敷だし、クラブも型落ちモデルを買う。
「見栄でなく本質を楽しむことです」
そのような考え方を持っている人のほうが貯金もたまるし、早期リタイアもできるということのようだ。