シャープは、経営不振のため、16年8月から台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入った。経営不振に陥ってから、これまでに約8000人の社員を削減しており、優秀な技術系社員のかなり流出したようだ。ヘッドハンティング会社の社長は「国内企業だけではなく外資系企業から狙われた。電機のこともわかり、ソフトウェアにも通じたエンジニアは自動車産業をはじめ引っ張りだこの状態で、突出したスキルを持つ人材には2000万円払うという会社もあったほどだ」と語る。

大手の一角を占めたシャープも平均年収は今や646万円(43.8歳)。中堅企業の水準にまで低下している。今年10月に発表した中間決算では、3年ぶりの黒字を計上し、12月には1年4カ月ぶりに東証1部へ復帰。同社は「感謝のしるし」として、全社員に「3万円」を配った。今後は給与の回復も期待できるだろうか。

年功要素を排除した「職務・役割給」制度

半導体業界の浮沈も激しい。半導体製造装置販売で好調の東京エレクトロンの平均年収は前年比46.4万円増の950万円(43.9歳)で8位。一方、半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスは前年比107万円マイナスの762万円(45.0歳)で48位だった。ルネサスは日立製作所と三菱電機の半導体統合会社が2010年NECエレクトロニクスと統合して発足したが、経営不振でリストラの嵐が吹き荒れ、多くの従業員が去った。合併当初約4万8000人だった従業員は、17年3月末までに約2万人となっている。

電機業界は他の業界に先駆けて賃金制度を変革してきたことでも知られる。2015年以降、ソニー、日立製作所、パナソニックなどの大手企業は年功要素を排除した「職務・役割給」制度を導入している。

この給与制度は欧米企業の「職務給」に比較的近いものだ。簡単にいえば、従来の給与制度が本人の能力や過去の実績など「人」を基準に決定していたのに対し、役割給は現在の「仕事」を基準に賃金を決定する。つまり、人を基準にすると、どうしても年功的になるが、役割給は年齢に関係なく役割(ポスト)で給与が決定し、ポストが変われば給与も変わり、当然ながら降格・降給が発生するという仕組みだ。

役割給の導入は経営不振など会社の危機的状況や合併を機に導入されることが多い。実際に給与ランク2位のバンダイナムコHDも合併を機に導入した。同社の元人事担当者に聞くと、「同じ45歳でもポストによって年収1000万円を超えている人もいれば、400万円台の社員も珍しくない状況」(元人事担当者)だという。

同じ制度を導入しているIT企業の人事部長は「部長職の年収は大体1500万円だが、ワンランク降格すると月給で10万円。賞与を含めた年収で200万円も下がる。同期の格差はもっと広がる。集計はしていないが、45歳の部長もいれば、課長や係長もいる。係長だと約600万円だから部長との年収差は900万円。もはや年齢で比較しても無意味だし、平均年収も実態を表していない」と指摘する。

この制度のメリットは若くても優秀な人材を抜擢できる一方、職責を全うできない社員を随時降格できる。つまり、年功と過去の実績だけで高給を得ていた“名ばかり管理職”を一掃できる。

この役割給制度は電機業界で主流の制度になりつつある。制度の導入によって同期の社員間の年収格差が生まれると、ますます平均年収の意味がなくなってくるかもしれない。