さて、一般にミニバンの3列目といえばオマケのようなもので、狭く閉ざされたスペースに押しこめられるのが通り相場だが、3列目シートに座ってみると、そうした窮屈さはなかった。まず、前方の視界が広い。そして頭上に余裕があり、シートもしっかりした感覚だ。大人が3人乗るには厳しそうだが、2人なら十分使えると思った。

車体のサイズ、価格は抑えめながら、「椅子は1クラス上のものを使っている」という(ホンダ)。

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先代モデルにあたるモビリオと比較すると、全長は14・5センチメートル、全幅は1センチメートルの拡大にすぎない。座面幅は1列目が0.5センチメートルのマイナスだが、3列目が全体でなんと34センチメートルのプラスとなっている。2列目は前モデルがベンチシートのため単純比較はできないが、各席が独立したキャプテンシートのフリードのほうが快適性は高いだろう。

先代モデルと大きくは変わらない外寸のなかでフリードがこうした空間を達成できたのは、低床フラットフロアの実現などに加え、空間を広く感じさせるさまざまな工夫がなされているからだ。たとえば、運転席が広く感じられるのはインパネを2段構成にしたから。3列目の視界のよさは、シートの着座位置を後列へ行くに従い高くしているからである。

フリードは取り回しのよさがあるうえ、エコを重視する世の中の潮流とも合致しており、今の時代に「ちょうどいい車」という印象を受けた。

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広めの座席幅が受けているといっても、よく見ていくと単に広さだけが重要ではなく、特に見知らぬ人と接する交通機関や映画館では、他者との接触を回避する工夫が人気につながっているようだ。その理由について立正大学心理学部の齊藤勇教授は、日本人の“他人との接触を嫌う文化”があるのではないかと見る。

「挨拶を見るとラテン系は抱き合い、アメリカ人は握手しますが、日本人はお辞儀だけ。他の民族に比べ日本人は接触を嫌う傾向があるのです。人間関係にも警戒心が強く、相手の気に入らないことを言って嫌われることを避けたがります。つまり、“パーソナルスペース”に入られるのも嫌だけど、文句を言って嫌われるのも嫌。ますます非接触文化が強まるなかで、そのストレスをお金で解決できるなら払う、ということでしょう」

広い座席が人気の背景に、他人との接触の排除があるとすれば少し寂しい。次は快適さを実現しつつ、他人とのコミュニケーションを誘発する座席を誰かつくってくれないだろうか。

(交泰=撮影)