法政大学 キャリアデザイン学部教授 上西充子さんからの提言
▼「繁忙期」を理由に、45時間を超える時間外労働を認めるべきではない
時間外労働に法的な上限を設けることが検討されています。そのこと自体は本来、歓迎すべきですが、休日労働を含んで時間外労働が単月100時間未満、2~6カ月の月平均では80時間以内が上限となりそうで、問題となっています。月平均80時間の時間外労働とは「過労死ライン」であるため、過労死ラインぎりぎりまでの時間外労働に法的なお墨付きを与えかねないと懸念されているのです。
厚生労働省は従来、特別条項を定めない限り時間外労働は月45時間までと告示によって定めており、月45時間を超える時間外労働は脳・心臓疾患のリスクを高めるとしてきました。
法的な上限は、休日労働を含めて月45時間以内であるべきです。「繁忙期」を理由として安易にそれを超える時間外労働を認めるべきではありません。
個々の労働者が健康に働けるためにも、また時間制約のある労働者が肩身の狭い思いをせずに働き続けられるためにも、本気の取り組みを各企業に促す法整備が必要です。
さらに健康確保のためには、月単位の上限規制だけでなく、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間にきちんと休息時間(勤務間インターバル)が日々確保されていることが重要です。徹夜に近い状況が続けば、体調は簡単に崩れてしまいます。
勤務間インターバル制度は当面「努力義務」となる見通しですが、すでに労使交渉により11時間の勤務間インターバル制度の導入を実現した例もあります。勤務間インターバル制度の導入とその実効性の確保のためには、個々の企業における労使の継続的な取り組みが欠かせません。法律において「努力義務」を「義務」へと格上げしていくためにも、個々の職場における努力が求められます。
撮影=澁谷高晴