裁判官もあきれる「酒やめるやめる」詐欺
意味がわからないのである。はっきりしているのは、常軌を逸した行動を取るほど被告人が酔っていたことだけだ。自分のしたことはおろか、なぜ腹を立てたのかすら覚えていないとトボける被告人に、検察官が憮然とした顔で言う。
「取り調べでは細かく言い訳しているのに、今日は覚えていないと言っている。どっちが本当なんですか?」
被告人は答える。
「外で飲んでいても、自分なんかに声をかけてくれるのは、おばあさんくらいしかいない。そうした寂しさが原因だったかな、と」
会話は噛み合わない。のらりくらり追求をかわそうとする被告人。どう答えれば有利になるかを考え、裁判では「知らぬ存ぜぬ」を決め込むことにしたのだろう。しかし、そんな態度を検事が許すはずもない。被告人がアルコール依存症気味であることを明かすだけではなく、こう続けた。
「前回は傷害致死事件でしたね」
▼被告「酒はやめます、約束します」、裁判官「誰が信じますか!」
げ。すごく小さな事件かと思ったら、過去に人を殺めたことまであったのか。しかも、今回の事件は服役を終え、出所間もないタイミングで起こったという。
凝りてないなあ。酒に酔った自分の危険性が自覚できていないのか。飲めさえすればあとは野となれ山となれの心境なのか。酒で人生を狂わせ、あまり反省しているとも思えない被告人に、検事はこの先どうするつもりかと尋ねた。
「今度こそ酒はやめます、約束します」
今この場面でもっとも説得力のないセリフである。100%無理、と思った瞬間、腹に据えかねた検事が声を荒げた。
「そんな話を誰が信じますか!」
被告人たちの話を聞いていると、引き起こした暴力に、必然性もやむにやまれぬ事情もないことがよくわかる。飲んで何かしたかったわけじゃなく、とにかく飲みたかったのだ。酔って記憶をなくした間にしたことは”自分のせい”じゃなくて”酒のせい”なのだから、知ったこっちゃない。そういう考えが透けて見える。