日本が生き残る「未来図」を描けるか

国の興亡の歴史をひも解けば、国家が隆盛するときには国民の精神に「モラル」と「モラール」の双方で活力が満ちている時代が続く場合が多い。倫理や道徳を意味する英語のモラルと、志気や気力を示すフランス語のモラールは、ともにラテン語の「モーレス」が語源になっています。この2つが国民の心の健康、つまり時代精神の活力を表現する言葉から派生しているということは、いつの時代においても社会を維持し、発展させるものが本質的には人々の精神的なエネルギーや国民の冒険心などだということを教えています。

『アメリカ帝国衰亡論・序説』(中西輝政著・幻冬舎刊)

一般国民はもとより、国家の指導者である政治家や経済界のトップには、そうした資質がより高く求められることは言うまでもありません。ところが残念なことに、今の日本のリーダーからは、そうした前向きの、思い切ったスピリットを感じることができないのが、この平成という時代の現実です。これでは、政府がどんなに理性的かつ合理的な政策を実行したとしても国力が浮揚していくことはないと思います。

今、世界の潮流は変化をいっそう加速させています。だからこそ私は、日本の国家としての生きる道を指し示せる「未来への大きな構想」をきちんと描くことが重要だと言いたいのです。それが容易ではないことは確かですが、しかし、それをしないかぎり時代を変革するエネルギーは生まれません。かつての日本は、明治の開花期、戦後の復興期など重要な歴史の転換点で、まず大きな未来像と国民の目的意識を取り戻すことで、その底力を発揮してきました。今こそ、この原点に戻り、新たな日本の立ち位置を見いだす努力をすべきでしょう。

中西輝政(なかにし・てるまさ)
京都大学名誉教授。1947年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒。ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授、京都大学大学院教授を歴任。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『大英帝国衰亡史』『日本人としてこれだけは知っておきたいこと』『帝国としての中国』『アメリカ外交の魂』など多数。近著に『アメリカ帝国衰亡論・序説』(幻冬舎)がある。
(取材・構成=岡村繁雄 写真=ZUMA Press/アフロ)
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