なぜ、和服の店はグルメツアーを開催したのか

山陰地方で和服の小売業を営むある企業は、長期低落傾向が強い呉服業界にありながら、毎年順調に売り上げを伸ばし、若手社員も雇用できている。この企業がブランド価値を向上させるために取り組んだ施策は、次の通りだ。

1、本社機能も兼ねた本店を、「洗練された内外装による路面店」としてつくりあげた

ショッピングセンター(以下、SC)内にあった本店(販売店と本社を兼ねる)を、立地条件の良い場所に、洗練された内外装デザインを施した路面店をつくって出店した。土地は賃貸にしてSC時代の家賃よりも安価にして固定費負担を減らしながら、企業訪問する学生たちに自社の魅力を「見える化」させ、大きな効果を上げた。

2、顧客に「和服で出掛ける機会と場所を提供」し続け、需要を創造した

山陰地方の街では女性たちが和服を着て出掛ける機会や場所が限られており、これが和服の需要を低下させていることに同社は気づいた。そこで自社の顧客が着物を着て出掛ける機会として、クラシックコンサートや小旅行、クリスマスパーティ、グルメツアーなどを自社で定期的に開催。顧客の案内役は、和装した社員が務めている。この取り組みにより既存顧客の購入頻度が高まり、新規顧客の開拓につながっている。さらに市場を創造するこうした取り組みが、人材を集める同社のニュースになっている。

もう一例挙げよう。自社工場を「見える化」し、顧客開拓と人材募集につなげる地方の飲料メーカーのケースだ。着替えをせずにいつでも本社工場を見学できるように、製造ラインとはガラス張りで遮断された見学専用通路をつくり、企業訪問を積極的に受け入れるようにした。清潔で安全な製造ラインを視察した見学者は納得し、OEM(Original Equipment Manufacture=相手先の企業名による製造委託)受注や共同開発案件を成約させることにつなげ、工場で働く人材獲得にも効果を上げている。

“広報”活動と“広告”活動とは別のもの

自社の「ブランド資源」を生み出しながら、次に経営者が取り組むべき施策が、「広報活動」だ。広報活動は、広告活動とは大きく異なる。広告はお金を出してメディアのスペースを買い、そこで自社のアピールを行う。資金さえあればどの企業でも広告は実施できるが、その効果は資金力に左右される。

一方、広報活動はテレビ(CS、BS、CATVなど)、ラジオ、新聞、雑誌、メディア各社が運営しているオンラインサイト(プレジデント・オンラインなど)、FacebookやブログなどのSNSなどに紹介されるように働き掛ける活動で、基本的に広告のような費用は掛からない。

だが番組や記事にふさわしいニュース性や話題性を備えていなければ、企業の情報は紹介されない。どうすれば報道され、あるいは紹介されてネット上に拡散し、情報が連鎖的に広がるか(これを情報連鎖と呼ぶ)が広報活動の肝になるわけだ。