なぜ、プロペシアはAGAに効くのか。坪井良治教授(東京医科大学皮膚科)が解説する。
「男性の骨・筋肉の発達や生殖機能に重要な働きを持つ男性ホルモンにテストステロンがあります。これが5α-還元酵素で活性化されるとDHT(ジヒドロテストステロン)になる。さらに、5α-還元酵素にはI型とII型があり、前頭部と頭頂部にあるII型により活性化されたDHTが、脱毛シグナルを出して毛髪の成長を妨げ、薄毛や脱毛を起こすことがわかっています」
したがって、DHTが出す脱毛シグナルをストップさせれば、AGAを防ぐことができることになる。坪井教授が説明を続ける。
「フィナステリドはテストステロンをDHTに変換する5α-還元酵素II型を選択的にブロックして前頭部や頭頂部での脱毛シグナルを抑える。男性ホルモンの活性化を抑えることから性機能が低下するのではと心配する人もいるでしょうが、性機能はテストステロンの直接作用であり、DHTは関係していないので心配いりません」
それではプロペシアの治療効果はどの程度のものか。MSD(当時は万有製薬)が行った国内の臨床試験では、投与1年後に58%の被験者で毛髪が増え、3年後では抜け毛の進行抑制と改善効果を合わせ98%にもなっている。ただし、満足を得るには最低でも半年以上は飲み続けることが重要だという。
倉田荘太郎院長(日本臨床毛髪学会理事長・別府ガーデンヒルクリニック くらた医院)が説明する。
「早い人なら3カ月で毛髪の変化を実感される人もいますが、当院では、治療を開始して6カ月目で最初の効果の判定をしており、満足度は一様に高いようです。『あまり変わらない』という人には、進行するAGAで、現状維持の重要性と治療の目的は髪の毛の本数だけでなく、太くなる、コシが出るなどの変化にも注目するよう話します。私の治療経験からすると髪の毛のボリュームが改善し、見た目が変化するピークは2~3年後です」
実は私も2年前、取材でプロペシアに出合ってから服用している。それまでは“薄毛難民”というより“ハゲ難民”といってよかったが、服用して3カ月、手の指頭に新たな産毛を感じ、プロペシアを続けることにした。それから1年目、家族からは「頭頂部全体に産毛が伸びてきて、背後の白い壁に髪の毛が立っている」とからかわれたが内心にんまりとしたものだ。そして2年目、倉田先生が話すように、産毛が長く伸び、太くなってきた。洗髪のときに指先に絡みつく髪の抵抗感が確実に強くなったことを実感している。
根気よく続けることの必要性を志保日比谷皮フ科クリニックの千田志保院長がこう語る。
「プロペシアを飲もうと思う患者は、市販の育毛剤やシャンプーをいろいろ換えても効果が実感できなくて医療機関を受診されます。即効性を期待して来院する人もいますから、治療の効果についてまず進行を抑え、毛髪状態を維持することの意義を説明します。飲み続ければ改善の効果を実感できるはずですから、コミュニケーションを培い挫折しそうになったときにはモチベーションを持続させるために『効果が出てきていますよ』『維持するのも一つの効果です』と言葉かけをしています。家族や周囲の励ましも大切です。奥さんが『飲んでいても効果が出てないじゃない』と言ったのでは傷ついてやめてしまいます。服用を継続して見た目が若返っていけば、QOL(生活の質)が向上し日常生活のモチベーションや仕事への意欲が積極的になってくると思います」
ところでプロペシアは残念ながら健康保険の適用外だ。自由診療で1日の薬代は1錠250円が相場だから、診察代を入れても1カ月で1万円程度だ。タバコやコーヒー代を控えれば捻出できる額だ。
ご自身もプロペシアを飲んでいると取材の最後に打ち明けてくれた渡邉泰弘院長(わたなべ皮ふ科クリニック)がこうアドバイスする。
「薄毛の悩みは、なかなか言いにくいかもしれませんが、まず医療機関を受診してみてください。髪の毛に関しては様々な情報があり、なかには誤解もあるので、医師と相談し、医学的に治療することが大切です。説明を聞いて納得してから、治療の可否を決めてもかまいません」
毛髪の状態が回復することで社会生活が向上するし、意欲がわくのであれば、薄毛と本気で向き合ってもいいのではないだろうか。