では、人工知能が言葉を獲得していけば、最終的に人間のような「感情」や「意識」を持つのでしょうか。喜怒哀楽のような「感情」は、もとをたどれば、すべて自分の生存のために備わってきました。人間は、自分にとってよいことがあればうれしいし、社会性が高い生き物なので、他人が楽しければ自分も楽しい。そのほうが生き残る確率が高かったからそうなっているわけです。それをプログラムで設定すれば、「ロボットにも喜怒哀楽がある」ように見せかけることはできますが、はたしてそうすることに意味があるのでしょうか。男型ロボット、女型ロボットをつくって、男型が女型を、女型が男型を好きになるように設定することはできますが、それは感情とはいえません。

AIは1回学んだことは忘れない

人間は情動によってドーパミンが出て、それが意欲につながっているわけですが、ドーパミンが出なくなると、やる気がなくなって、何もしなくなります。人工知能も「こういう動きをしなさい」という目的を与えれば動きますが、それがなければ何もしないのです。「この仕事をしなさい」といった目的を与えて、それを最大化するようにプログラムすれば、人工知能はさまざまな方法を試します。その過程で、自分と他人という区別をつけたほうが、学習効率が上がるのであれば、そこに「自己」という概念が発生し、自他の区別をしはじめるかもしれません。

2012年以降の人工知能研究によって最も進展があったものの一つが、深層学習による認識と、「探索」や「強化学習」などの従来技術の融合です。強化学習は、機械が試行錯誤を通じて環境に適応していく学習の枠組みですが、深層学習と組み合わせることで、状況を上手に認識した上で上達することが可能になりました。この技術が、イ・セドル九段を破ったアルファ碁にも使われています。人間と違うのは、1回学んだことは忘れないということです。人間のように、そのときの体調や集中力によってミスをしたりはしません。自動運転車が増えれば、人間が運転するより、よほど事故は減るはずです。