16年7月には、メルシーボックスに妊活中や育児中の社員のための制度を追加。社員が安心して働ける環境づくりを進めてきた。

「育休についても、メルシーボックス導入後は男性役員も率先して取得しています」と語るのは、人事で採用を担当する石黒卓弥さん。自身も育休を取得した経験から、メンバーにアドバイスをすることも。以前は、大手企業の人事を担当し、長く続いてきた文化を変えることの大変さも体験してきたからこそ「制度ありきにならず、風土や環境を整えていくことが大切」と語る。

「経営陣をはじめとするメルカリのメンバーの、やりたいことを実現しやすい環境をつくるのが人事の仕事だと思っています」

3つのバリューが生んだ理想的な仕事環境

ダイバーシティ&インクルージョンとは本来「多様性」と「受容」を意味し、企業や組織において、性別や年齢、学歴、性格、宗教、国籍、価値観などの多様性を受け入れ、活用し、生産性を高めようとするマネジメントを指す。しかし、男性が社会をリードしてきた歴史が長い日本では、「女性活用」への取り組みであると考えがちだ。だが、メルカリの視点は最初から多様性をもち、全社員へと向けられていた。

メルカリには3つのバリューがある。「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」。この視点に共感できる人を採用したうえで、社員が大胆に働くために必要なサポートがメルシーボックスであり、制度や規則の制定を目的としているわけではない。

「基本的にメルカリでは、家賃補助などの福利厚生を設けていません。給与の使い方は社員それぞれ。人生の『アップサイド』の部分は自由に楽しんでほしいから、会社側で使い道を限定せずに給与をベースアップしています。一方、突然の病気やけが、出産や育児、介護などライフイベントで起こりうる、働けないという『ダウンサイド』のリスクについては、会社でできる限りフォローしたいと考えています」と語るのは、取締役の小泉文明さんだ。

取締役 小泉文明さん「ライバルに勝つためのダイバーシティです」

3つのバリューに基づいた施策を柔軟に実行しながら、最終的に残った施策を徹底するのがメルカリ流。

「すべての社員が同じ目的に向かうためには、社員同士のコミュニケーションが必須」と言う小泉さん。そのための試みとして、たとえば月に1度、プログラムがランダムにメンバーを組み合わせるシャッフルランチを設定し、会社もそれを支援。プロフェッショナルに働くために、余計な会議は極力省き、社内向けの膨大な資料作成はせず、個人の裁量に任せ、社員が全力を出せる環境づくりを積極的に進めているという。もちろん、効果のない制度はやめる。

「社員には当然、結果を求めます」と小泉さん。そう、多様性を包括する組織とは、所属する個々の視点と能力を最大限に活用することであり、同時に個々が積極的に参加し結果を残すという効率的で、WIN-WINなしくみそのものだ。