培ったマネジメント力すべてを出し切った日々

佐藤さんはその年の8月、補償相談室に異動し、東京電力が提示する損害の補償額に納得できない人の電話を受け付けるグループのマネジャーに就く。

次々と叱責(しっせき)の電話が鳴る。

「なんで払えないんだ!」

それに対して丁寧に説明する。

メンバーは佐藤さんほか、あらゆる部門から集められた26人。日ごろ設備しか相手にしていない、会話下手な技術者もいた。メンバーの心が折れたら補償相談室は機能不全となり、それこそ被害にあった人たちの迷惑になる。

「厳しい仕事だけど全員でやり遂げなくてはいけません。各自がバックグラウンドもモチベーションも違います。メンバー一人一人に寄り添い、どうやったら100パーセント力を出してもらえるかといつも考えていました。自分が培ってきたマネジメントの力をすべて出し尽くしたと思います」

メンバーは一人も脱落することなく仕事をやり遂げた。だが事故の問題がすべて解決したわけではない。信頼の明かりを取り戻すため、フルにマネジメント力を発揮する日々が続く。

■Q&A

 ■好きなことば 
人生プラスマイナスゼロ(しんどい時期は、「これ以上落ちることはない」と、いい時は「調子に乗るな」と自分に言い聞かせる)

 ■趣味 
フィットネス、ガーデニング、料理

 ■ストレス発散 
犬と遊ぶ

 ■愛読書 
山本周五郎(全作品を揃えている)

澁谷高晴=撮影