ページに記された「海」1文字

ユーザーの使い方は実に多様です。日記のように使う人もいれば、イラストを描く人、写真を貼る人、祖父・娘・孫の3世代で使うご家族もいます。初めての取引先との打ち合わせで、担当者の似顔絵を描いておくという人もいました。

スケジュール管理のメモは、行為の記録。しかし、考えたこと、感じたことを記録にすれば、それは表現になりますよね。僕もたまに自分の手帳を見返すことがあるんですが「ああ、去年の今頃はこんなことを考えていたのか」とか「これ、今の仕事に使えるじゃないか」という記述も出てきます。

ほぼ日手帳は、予定のための手帳というより、過去を振り返り、そこにいる自分を眺める手帳という性格が強いと思います。考えたこと、感じたことを記録するから、そこに持ち主の人間性が表れるんです。

僕が見せてもらった手帳でよく話題にするのが、ある若いお母さんの出産の記録。出産間近の不安や喜びが日記のように綴られていて、出産当日には「陣痛始まる」という記述があり、出産後は赤ちゃんの写真が増えるんです。

彼女が僕の奥さんで、その手帳を見たら「大事にしなきゃ」と思いますよね。生まれた子が女の子で、成長して子供ができたとき、この手帳を見たら「お母さんも私と同じだったんだ」と思うでしょう。安心するし、出産の覚悟もできると思う。

ほぼ日手帳全体のデザインを担当する佐藤卓さんの平日のページには几帳面にびっしりとスケジュールが書き込まれています。ところが、対照的に「海」という1文字だけしか記されていないページがあるんです。

佐藤さん、サーファーなんですよ。それを知れば、その1文字から海へ行ける日の楽しみと喜びが伝わってくるでしょう。当人も、その1文字を書き込む瞬間に、うれしさを味わっているはずですよ、きっと。