「どん底」が鍛えた精神力と決断力
はたから見たら「どん底」生活でしょうが、僕は鈍感なんですよ。すごい喪失感もあったと思うけれど、あまり記憶に残っていません。まあ、仕方ないよね、というぐらいの話だし、会社が破たんする前から、そんなに極端に華美な生活はしていませんでした。
上場準備に入ってからは、主幹事証券会社の勧めで月給250万円まで引き上げましたが、それまではずっと月給25万円でやってきていたのです。会社経費で落とせるものもありましたが、中の上ぐらいの生活です。クルマは3000万円ぐらいのメルセデス・ベンツでしたが、型落ちの在庫品を会社から引き取ったもの。六本木ヒルズに住んだ時期もありましたが、東京で家賃100万円のマンションなんて珍しくないでしょう。利便性などを考えたら、決して無駄な投資ではない。
成功した経営者のなかには、こういう状況に陥ったとき、生活レベルを落とすことに強い抵抗感がある人も多いと思います。ひとことで言えば見栄っぱりなのですが、僕にはそういうところがまったくありません。金持ちになると牛丼チェーン店に行かない人もいるけれど、僕は今でも平気。牛丼を前にして涙を流すのではなく、卵を1個付けて「今日は贅沢だなあ」とか思うタイプですから、当時もさして不満はありませんでした。
ただ、2年弱ぐらいかかって借金を返し終わったとき、サラリーマンになろうと思い、実際、バスの運転手の求人に応募したこともありました。疲れたんですよね。毎日すごく頭を使ってお金のやり繰りをして、月末には何度も胃が縮む思いをする。そんな時期を切り抜けたとき、一瞬、ストレスがないところに行きたいと思ったんです。
その半面、精神力が鍛えられましたね。石炭が熱と圧力をかけられてダイヤモンドになるように、短い期間だけれどギューッと圧縮されるような心のありようを経験したことで、物事に動じなくなりました。
その分、他人に対する許容範囲も広くなりましたし、勝負に出るときの度胸も決断力もつきました。