PANA=写真
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最高検察庁検事総長 大林 宏(おおばやし・ひろし)
1947年、東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。72年に検事に任官。法務省刑事局長、法務省事務次官、札幌高検検事長、東京高検検事長などを経て2010年6月に検事総長就任。座右の銘は「苦あれば楽あり、楽あれば苦あり」。


 

大阪地検特捜部の主任検事による証拠物改竄事件は、国民の検察に対する信頼を根底から覆した。絶対権力を持つ検察が、証拠をでっちあげるという行為はまさに「あってはならないこと」だった。

その検察庁の最高責任者が大林宏検事総長だ。今年6月に東京高検検事長から検事総長に就任した。郵便不正事件では、検察側が描いた事件の構図や供述調書の信憑性が裁判で否定され、その直後に改竄事件が表面化。また、尖閣諸島沖の衝突事件では中国漁船船長を逮捕したものの、検察の“総合的判断”によって船長を釈放。高度な政治問題を検察の一存で決定する形で解決が図られた。

検察機構全体に問題が生じていることに疑う余地はない。日本では、取り調べの録画による全面可視化はおろか、弁護士立ち会いすら許されていない。先進国や韓国、台湾、香港などはすでに可視化、弁護士立ち会いが実現している。密室の取調室で検事が作文した調書に頼って、きちんと証拠集めをしてこなかった検察の手法に赤信号がともっている。

検事任官以来38年のうち20年間が法務省勤務だが、現場の経験が豊富で検察の実態は理解している。2002年、名古屋刑務所で起きた受刑者暴行事件では法務省官房長として事件の徹底究明を行い、監獄法改正への道を拓いた。

裁判所が「裁判員制度」の導入で一足先に改革を実施するなかで、検察も変化を迫られているのは明らかだ。今回の事件では、検察トップとしての責任問題も浮上しており、検察の信頼回復を急ぐ必要がある。同時に、可視化や弁護士立ち会いなど、冤罪を防ぎ、国民の権利を守る制度改革に取り組むべきだ。冷静だが熱血漢といわれる大林氏が、そのカギを握っている。

(PANA=写真)