リーダーシップが培われる環境

2010年に、生え抜きの日本人で初のCEOとなった高岡浩三社長は、社長に就任してからは8割方を人事について考えてきたという。

「ダイバーシティ効果は、個々人の知識と経験の掛け算で決まります。性別や育ってきた文化・環境が違えば違うほど、その掛け算で効果が大きくなってくるので、そこからイノベーションにつながる新しい発想やアイデアが生まれやすくなる。また、異なる考えをまとめて一つの方向に導いていくリーダーシップも、意見が百出するダイバーシティの中で培われます」

ネスレ日本創業時の、ネスレ・アングロ・スイス煉乳会社日本支店の看板。現在は、神戸本社の受付に飾られている。

ネスレ日本では社員を若いうちに異なる文化・環境に放り込んで育てようと、海外人材交流プログラムを導入している。外資系企業ならすでに社内がインターナショナルな環境ではないかと想像してしまうが、ネスレ日本の場合、外国人社員の比率は2%以下と小さく、部署によっては外国人と接する機会も少ないのが実情だという。海外経験のある社員に赴任前の英語力について質問すると、一様に「自信がなかった」「日常会話程度」という答えが返ってきたのも意外だった。

指示通りメンバーが動かず悔し涙を流したことも

交流プログラムで2014年夏から1年間、ネスレオーストラリアのスミスタウン工場に派遣された花島知美さんは、現在、茨城県にある霞ヶ浦工場で働いている。オーストラリアでは、主力製品である「ミロ」の品質向上プロジェクトのリーダーを務めた。メンバーはオーストラリア人、コロンビア人など7人の男女。英語力は日常会話が精いっぱいだっただけに最初は苦労もしたが、全員が意見をぶつけ合うことで成果が出たと花島さんは話す。

「勤続20年以上のメンバーもいました。年齢・性別・国籍関係なしで、互いにファーストネームで呼び合ってフランクな会話ができました。ただ……」

指示通りメンバーが動いてくれず悔し涙を流したことも何度かあった。

霞ヶ浦工場 無菌充填課 花島知美さん。院生時代、シリコンバレーに拠点を置く日米の企業を見学し「両方の強みを持つ最強の会社をつくりたい!」との思いで入社。「空気を読まず、思ったことを発言する。チームワークを固める秘訣です」

「直接会ってコミュニケーションすること。そこは世界共通だと思います。なぜやらなかったのか理由を聞いて、業務の重要性を丁寧に説くしかありません。そうするうちに心が通じる瞬間があります。いったん信頼関係が生まれれば、そこからは早かったですね」

プロジェクトチームの使命はミロの製造過程で生じる廃棄物を削減することだった。しかし、設備のどこをどう改造すればよいのか解決の糸口がなかなかつかめなかった。

「ネスレのほかの工場では最新設備を導入して高効率で稼働していました。それが当たり前であるがゆえに、私たちが悩んでいた問題についてはだれも気に留めず、有用な情報として発信されていなかったんです」