失敗したときこそポジティブな振り返りを

先ほどの会話例はうまくいった場合の振り返りでしたが、うまくいかなかった場合にも振り返りは必要です。しかし、失敗したことについての振り返りをする際には、以下の2つの点に注意しなければなりません。少なくともこれら2つの点が守られなければ、振り返りを通じて、自分(達)を見つめ直して学びを得るということができなくなってしまいます。

まず1つ目は、振り返りはいわゆる「反省」のようにネガティブな側面にのみ焦点を合わせるのではなく、できていた部分や良かった部分についても目を向ける必要があるという点です。振り返りの中でネガティブな部分が出てくるのは当然のことなので、前述の3つの質問をうまく使って「できなかった」理由やその背景、何が障害になったのかといった点にも視野を広げられるようにするのが良いでしょう。

2つ目は、振り返りとはあくまで次の行動を目指して行うための活動なので、誰かを非難したり責めたりする事が目的ではないという点です。誰かを責めるような状況では、人は防衛的になり自分の思っていることを正直に伝えられなくなってしまいます。そうなれば、事実をチームで共有し、俯瞰すること自体ができなくなってしまいます。ですから、振り返りの問いかけをする側は質問が相手を責めないように、そして自分の判断が入らないように質問の仕方に気を配る必要があります。

この2点への気配りがあれば、失敗した場合でも同じように質問することで振り返りを行い、次へ生かすべき学びや行動を明確にすることができます。そして、こうした振り返りを促す質問は他人に対してだけでなく、自分に対しても有効です。連載第10回で紹介した自問自答のように、何が起こったのか、そこから何が学べるのか、そして今後どんな行動をとるべきかという3つの質問を自分に問いかけることで、学びを得るための振り返りが人の手を借りずともできるようになるのです。

リーダーとして人を育てるということ大きな目標に置き、日々の業務の中で、メンバーや自分自身に対する質問を取り入れてみてください。今回で連載「『人』を動かす質問力」は最終回となります。ありがとうございました。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)
日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。