リーダーの仕事は多岐にわたりますが、その中で、人を育てるということは最重要の課題です。3つの質問を使った“振り返り”を行えば、メンバーの能力を高め、チームの成長スピードを上げ、リーダー本人も学びを得られます。
成功も失敗も振り返らなくてはいけない理由
リーダーや先輩として重要な能力の1つは、人を育てるということだと、よく言われます。ただ、実際にどうやったら人が育てられるのかというのは非常に難しく、リーダーにとっての永遠のテーマです。これまでの連載でお伝えしてきたように、単に作業のやり方を指示するだけでなく、考え方などを含めた学びを促すことができれば、それは他人だけでなく自分の成長にもつながります。
私たちの普段の生活では、大なり小なりの成功と失敗が発生しています。この時本当に大事なのは、成功や失敗が起こる度に学び、次回の成功をより大きく、失敗はより小さくしていくことです。
私は、会議でチームが成長できるようにするためには、「振り返り」がとても重要だと考えています。「振り返り」をする中で、話し合い全体を俯瞰し、それぞれがリフレクション(内省)すること。具体的に言えば、リーダーである私が会議の途中で「私たちはうまくいっているか?」「どうしたらもっとうまくやれるか?」という問いを投げかけます。ちょっとしたこの時間を取ることで、メンバーに気づきや発想の転換を促せます。
日常業務に没頭していると、自分の仕事のやり方やコミュニケーションを振り返る機会はほとんど確保できません。慌ただしい中、振り返りができないと、同じ失敗を繰り返してしまったり、また、うまくいったことをもう一度再現したりすることができません。それは、自分たちを成長させるスピードが落ちてしまうということです。
振り返りのための3つの質問
人を育てる質問、つまりは振り返るための質問には、主に次の3つがあります。
【1】私(たち)はうまくいっているか?
業務に取り組んでいると自分自身、チーム全体を客観的にみる機会がどうしても少なくなるので、この質問を行うだけでも一歩引いた視点から冷静に自己分析ができます。その際に、うまくやれている点を認識することが特に重要です。追加で「どうしたら、もっとうまくやれるか?」という質問を行い、うまくいっているポイントをより強化し、うまくいっていない部分の改善や軌道修正を図ることもできます。
【2】何を学んだか(どんな意味があるか)?
経験を通じてどんなことを学んだかについて、確認します。これにより、経験をオリジナルの知識として定着させることができます。
【3】何が今後に生かせるか?
うまくいったこと、失敗したことを整理することにより、知識や経験を次の業務に活かすことができます。
成功や失敗からの学び方は一様ではありません。また、リーダーやマネージャーが「学べ」と言っただけでは人は学ぶことができません。自ら学ぶ人材を育てようと思うなら、部下や後輩に対して指導するだけでなく、振り返りを促すことで学ぶ力を伸ばしてあげる必要があります。そして、振り返りを促すためには段階的に質問することがとても効果的なのです。
「正しく振り返る」ための3つの質問
「振り返り」という言葉はさまざまな場面で使われますが、ここでは自身やチームの体験を抽象化し、自分にとっての意味を考え、そこから学びを得るプロセス全体を指しています。例えばPDCAサイクルではCheckからActionまでがこれに当たります。
振り返りを促すためには、前述の3つの質問の背景にある(1)何が起こったのか(What)、(2)それにどのような意味があるのか (So What)、(3)今後どんな行動をとるのか (Now What)、と3段階で質問を重ねていくことが効果的です。
1つ目の質問「私(たち)はうまくいっているか?」は、いったい何(What)が起こったのかという状況を描写させ、事実関係の確認を行うための質問です。この質問によって、振り返りの対象となる出来事と、また本人がその出来事をどのように理解しているのかを共有します。
2つ目の質問「何を学んだか(どんな意味があるか)?」では、その出来事に本人がどのような意味(So What)を見出しているのか、という点を振り返ります。同じ出来事であっても人によって意味付けは異なります。そこで、特定の出来事をどのように捉えているのか、何故そう思うのかについて聞くことで、本人にとっての意味を共有します。具体的には、「そこから何を学んだのか」という学びを問う質問の他、「その体験から何が言えるのか」といった抽象化を促す質問がこれに当てはまります。
そして、出来事とその意味を確認した上で行う3つ目の質問「何が今後に生かせるか?」では、これからどうしていきたいのかという行動(Now What)について問います。もっと良くするために必要な行動やこれから挑戦してみたいことなどを聞くことで、振り返りで得た学びを次の行動に移せるよう促します。
成功体験の再現性を高めるために
では、こうした質問は具体的にはどういった場面で使っていけばよいのでしょうか。前回の連載第11回「袋小路で悩めるメンバーを救う『ミラクル・クエスチョン』とは?」(http://woman.president.jp/articles/-/995)で取り上げたAさんを例に考えてみましょう。取引先であるX社とのやり取りがうまくいっていなかったAさんですが、仮にやり取りがうまくいき、受注に至ったとしたら、どのように振り返りができるのでしょうか。
リーダー:今回はX社との取引、お疲れさま。早速だけど簡単に振り返りをしてみよう。
Aさん:はい。
リーダー:まず、今回の取引について簡単に報告してくれるかな?【What】
Aさん:はい、以前報告したように私から何度もX社に訪問し、いろいろと指摘や質問を受けていました。時間はかかりましたが受注に至りました。
リーダー:それじゃあ、今回受注に至った要因は何だと思う?【What】
Aさん:やはり、何度も訪問する中で先方と信頼関係が築けたのが良かったのだと思います。途中からは先方からの指摘や質問の背景についても、ざっくばらんに聞けるようになりましたし、社内の都合なども積極的に教えてくれるようになりました。
リーダー:なるほど、相手との信頼関係がキーになったんだね。Aさんは今回の件からどんなことを学んだと思う?【So What】
Aさん:はい、相手の要望に真摯に答えることが信頼関係を築く一歩になると改めて思いました。もし面倒に思って手を抜いていたら、受注できなかったのではと思います。
リーダー:今回の件を振り返って、次回以降に生かしていきたいことは何かある? もっと良くできそうな部分は何かある? 具体的にどんなことができそうだろうか? 【Now What】
Aさん:そうですね……次に新規の顧客との関係づくりをするときには、もう少し短い期間で信頼を得られるようにしたいです。今回は時間がかかり過ぎましたので。具体的には、相手の話を聞く際に、その背景についても併せて聞けたら良いと思います。
ここではリーダーはAさんに対して3つの質問で段階的に振り返りを促しています。まずは受注に至ったという状況を共有し、次にそこからの学びを、そして最後には今後の行動について質問しました。このように振り返りを段階的に行うことで、1度の成功の再現性を高められるようになるのです。
失敗したときこそポジティブな振り返りを
先ほどの会話例はうまくいった場合の振り返りでしたが、うまくいかなかった場合にも振り返りは必要です。しかし、失敗したことについての振り返りをする際には、以下の2つの点に注意しなければなりません。少なくともこれら2つの点が守られなければ、振り返りを通じて、自分(達)を見つめ直して学びを得るということができなくなってしまいます。
まず1つ目は、振り返りはいわゆる「反省」のようにネガティブな側面にのみ焦点を合わせるのではなく、できていた部分や良かった部分についても目を向ける必要があるという点です。振り返りの中でネガティブな部分が出てくるのは当然のことなので、前述の3つの質問をうまく使って「できなかった」理由やその背景、何が障害になったのかといった点にも視野を広げられるようにするのが良いでしょう。
2つ目は、振り返りとはあくまで次の行動を目指して行うための活動なので、誰かを非難したり責めたりする事が目的ではないという点です。誰かを責めるような状況では、人は防衛的になり自分の思っていることを正直に伝えられなくなってしまいます。そうなれば、事実をチームで共有し、俯瞰すること自体ができなくなってしまいます。ですから、振り返りの問いかけをする側は質問が相手を責めないように、そして自分の判断が入らないように質問の仕方に気を配る必要があります。
この2点への気配りがあれば、失敗した場合でも同じように質問することで振り返りを行い、次へ生かすべき学びや行動を明確にすることができます。そして、こうした振り返りを促す質問は他人に対してだけでなく、自分に対しても有効です。連載第10回で紹介した自問自答のように、何が起こったのか、そこから何が学べるのか、そして今後どんな行動をとるべきかという3つの質問を自分に問いかけることで、学びを得るための振り返りが人の手を借りずともできるようになるのです。
リーダーとして人を育てるということ大きな目標に置き、日々の業務の中で、メンバーや自分自身に対する質問を取り入れてみてください。今回で連載「『人』を動かす質問力」は最終回となります。ありがとうございました。
日本アクションラーニング協会 代表。
東京女子大学文理学部心理学科卒業後、事業企画や人事調査等に携わる。数々の新規プロジェクトに従事後、渡米。ジョージワシントン大学大学院マイケル・J・マーコード教授の指導の下、日本組織へのアクションラーニング(AL)導入についての調査や研究を重ねる。外資系金融機関の人事責任者を経て、(株)ラーニングデザインセンターを設立。国内唯一となるALコーチ養成講座を開始。また、主に管理職研修、リーダーシップ開発研修として国内大手企業に導入を行い企業内人材育成を支援。2007年1月よりNPO法人日本アクションラーニング協会代表。