何度も昇進を拒んできた。でも今は、自分が先頭に立って職場を変えていく、そう決心している。彼女を変えたものとは?
朝の通勤時間帯、車がひっきりなしに通る国道沿いの営業所の出入り口に、佐川急便の配送トラックが列をつくっている。
「行ってらっしゃい! 気を付けて」
冬晴れの澄んだ空気のなか、大西由希子さんは配達に向かう車両のドライバー一人ひとりに声をかける。その際、彼女は運転席の彼らとハイタッチして、車の往来が途切れるのを待つ間に必ず近況を尋ねるのだった。
「お子さんはどう?」「今度、ソフトボールの試合があるんだって?」――そんな会話を交わした後、ドライバーたちは彼女と視線を合わせ、「行ってきます」とうなずく。その様子からは、彼女がスタッフから深い信頼を得ていることが伝わってくるようだった。
「朝は荷物の準備で忙しいので、スタッフと話す時間が持てないんです。だから、あの1分間は彼らとコミュニケーションをとる大切な時間です」
全国に430の営業所を展開する佐川急便において、彼女は唯一の女性所長だ。入社は1998年。高校を卒業後に三重県のゴルフ場でキャディとして働いた後、21歳の時に地元・宮崎県延岡営業所の宅配ドライバーとなった。高校時代にソフトボール部に所属し、スポーツ関係や体を動かす仕事に就きたいと思ったのがその理由だった。