「全員が自分の娘」
ホッケーの監督の父がいる。女子日本代表「さくらジャパン」の姉妹もいる。14日に開かれたリオデジャネイロ五輪の日本代表選手の発表会見。指揮をとる永井祐司監督とともに、長女の友理(レアルソシエダ=スペイン)、次女の葉月(ソニー)も壇上に座った。父娘3人同時五輪出場。幸せな家族である。
52歳の永井監督はきっと真面目で照れ屋なのだろう。「親子での五輪出場の感慨は?」と聞けば、ボソッと漏らした。「ないです」と。
「ほんとうに長く、(候補選手)25人ほどの選手で強化をやってきました。全員が自分の娘と思っています。そういう意味では、ほんとうの娘も、うその娘も(感慨は)一緒でして。娘ふたりにはとくに声は掛けていません。チームの中で自分が担った役割というものがあるので、それを全うしてもらいたいだけです」
ホッケー一家である。永井監督は現役時代、日本代表主将を務め、男子代表監督も歴任した。2012年ロンドン五輪では女子代表コーチで参加し、14年にさくらジャパンの監督に就任した。監督の妻も80年代に活躍した元代表だが、五輪出場の夢を果たすことはできなかった。その夢を受け継ぎ、娘ふたりが実現したことになる。
永井監督は述懐する。14年10月、監督就任を日本ホッケー協会から打診されたとき、長崎国体の宿舎で娘ふたりに「これから、中途半端な実力だったら、(代表から)落とさざるを得ない。いろんな形で迷惑をかけるかもしれないし、嫌なこともあるかもしれない」と言ったそうだ。
親子であっても、監督と選手の立場になったら、より厳しく接することになるということだったのだろう。周囲の視線は厳しくなる。永井監督こう、言葉を足した。
「もしも、ふたりの実力が中途半端で、今回みたいに選ばれていると、ホッケー界の方々からは、“親子だからだね”みたいに見られていたと思います。(実力が)当落線上だったら、落としていますよ。でも、ふたりはそのレベルをクリアしていると思います。みなさんも、“選ばれるべくして選ばれた”と考えてくれているでしょう」
娘ふたりは親の七光りでなく、本物の才能があった。スティックなどホッケーの用具が転がっている家に生まれ、ホッケーの盛んな岐阜・各務原(かかみがはら)の恵まれた環境の中で育った。ふたりにとって、五輪出場は夢ではなく、現実的な目標だった。リオ五輪代表に決まった時、父親の永井監督は妻や娘に事前に話すことはなかった。妻は娘から「代表決定」を聞いた。