今までのグローバル資本主義は、個々の動き(部品)が合理的な動きをして全体を形成する「機械論」だった。しかし現行のシステムは限界にきている。むしろ投資やマーケットは、人生や人間に似た矛盾だらけの生き物で、「生命論」として捉えるべきなのだ。この考え方は、ファンド資本主義に違和感を覚えていた私が、理想とする投信会社を立ち上げるきっかけとなった。

その際、大きな影響を受けたのが、『生命の暗号』と『八つの日本の美意識』。前者は、いい環境に身を置くことが眠っているDNAのスイッチをオンにするという説を展開する。後者は建築家でプロダクトデザイナーの著者が「矛盾の中にこそ、次の創造性のヒントがもっとも含まれている」と語った本だ。田坂広志さんの著作にも共鳴する部分が多い。『目に見えない資本主義』の「数値化だけが全てではなく、見えない価値を重視する社会が到来する」という主張は、生命論にも通じる。

そして古典にも学ぶべき点は少なくない。アダム・スミスの『国富論』のベースには、相手の感情を理解したうえで自由に行動する『道徳感情論』の考えがあった。『論語と算盤』も読んでほしい一冊。経済と道徳の、両輪が回ることが企業の持続性につながることを説いている。
「投資本」ではなく、遠い分野の本からヒントを得ることが多い。「30年投資、30銘柄」の長期投資に携わる者として、長い時間軸で世界を見た本が一番の参考になる。

1 生命の暗号/村上和雄
 2 八つの日本の美意識/黒川雅之
 3 Invisible Capi talism 目に見えない資本主義/田坂広志
 4 アダム・スミス―「道徳感情論」と「国富論」の世界/堂目卓生
 5 論語と算盤/渋沢栄一
 6 「勝ち」より「不敗」をめざしなさい/守屋 淳
 7 イノベーション思考法/黒川 清
 8 新日本永代蔵―企業永続の法則/船橋晴雄
 9 チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える/渡邊奈々
 10 まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか/ナシーム・ニコラス・タレブ

(構成=鈴木 工 撮影=的野弘路、永井 浩)