追い打ちをかけるようで恐縮だが、退職金の支払いもあやうい状況になってきている。ロスジェネ世代には退職金などはなから当てにしていない人が多いが、上の年代の多くは、自分たちの世代は何とか貰えるのではないかと期待していることだろう。

そもそも退職金とは、給与の後払いという性格を持っている。月給を少なめに支払い、それを企業がプールして運用し、退職時に後払い分をまとめて支払うのが退職金制度の実像だ。毎月の給与支払い総額が少なくて済み、キャッシュフローも良好にできる。政府も退職金制度を支援するために、税制上の優遇措置(退職所得控除)を採用してきたから、退職金制度は日本企業にとって、採用するのが当たり前の制度として定着してきた。

しかし、退職金の積み立てが多くの企業の業績を圧迫し始めている。リーマンショックによって、その数はさらに増加したはず。もはや、このままでは退職金を支払うことはできないからと、早々に401kに切り替えた企業も多い。最近はあまり聞かれなくなったが、退職金制度を勧奨する税制を縮小すべきだという声もある。税制調査会の議論の中に、退職所得控除の縮小というテーマが何度も顔を出しているのが、何よりの証拠だ。

退職所得控除の縮小が実現すれば、日本企業から退職金制度が消えてなくなるかもしれない。退職金を当てにしてライフプランを考えてきたロスジェネ以上の人々は、サラリーマン人生の最後にとんでもないしっぺ返しを食らう危険性があるのだ。

冒頭述べた通り、現在の高額所得者の未来にいい話はほとんど思いつかないのだ。仮に給与水準が維持され、退職金制度が維持されても、極端に進行してしまった二極化を是正するために、税制による所得の再配分が早晩断行されることになるだろう。再配分の方向は無論、富める者から貧しい者へ、である。

構造改革を称揚していた中谷巌氏は『資本主義はなぜ自壊したのか』という“懺悔の書”を書いたが、いわゆる新自由主義の行き過ぎによるツケは、行き過ぎのお陰で分不相応に高い所得を得てきた層が支払うことになるのである。