東京電力本社で8月に開かれた廣瀬直己社長の会見は、いつもとは様子が違った。話のテーマは、2016年4月の電力小売り全面自由化に合わせて設置する、持ち株会社のロゴマークやコンセプト。会場を歩き回りながら身ぶり手ぶりを交え「東電は大きな改革を断行する」と訴える廣瀬氏の姿は、故スティーブ・ジョブズ氏の会見に似ていた。社内には反対もあったが、廣瀬氏本人はこの会見スタイルに前向きだった。結果は、「時代の変化を先取りしようとする心意気が感じられた」(大手電力関係者)との評価がある一方、「同じことが福島でもできるのか」(福島の地元紙)と批判も受けた。
廣瀬氏の社長就任は12年6月。原発事故を起こした東電は実質国有化され、トップの首もすげ替えられた。社長人事を巡っては改革派の若手抜擢を狙う政府側と、社内主流派を推す勝俣恒久会長(当時)らとの綱引きがあったが、最終的に選ばれたのは中間派の廣瀬氏だった。
当時は経験不足に不安の声があった。新潟の柏崎刈羽原発も再稼働の見通しが立たず、一時は経営が危ぶまれる局面もあった。だが、コストカットは現状で「廣瀬社長の下、やりすぎなぐらい進んでいる」(幹部)。燃料価格の下落もあり15年4~6月期の連結経常利益は前年同期比約4倍の2141億円と過去最高。来年迎える自由化で他電力や異業種が東電管内に攻めてくるが、受けて立つ素地は整いつつある。企業体質をさらに強化して収益を上げたら、福島の復興にもより尽力してほしい。
東京電力社長 廣瀬直己(ひろせ・なおみ)
1953年生まれ。一橋大卒。76年東京電力入社。執行役員、常務、福島原子力被災者支援対策本部副本部長などを経て2012年6月社長。
1953年生まれ。一橋大卒。76年東京電力入社。執行役員、常務、福島原子力被災者支援対策本部副本部長などを経て2012年6月社長。
(AFLO=写真)